レベル: 中級 / 読了目安: 約40分 / 前提知識: 百分率と除算。減価償却が非現金費用であることの理解。
学習目標
- 物件価値=NOI÷キャップレートでポートフォリオ価値を計算できる
- NAV/口と暗示キャップレートに翻訳して議論できる
- 固定負債による感度の非対称性を口ベースで説明できる
理論の起源
Block, R. L., Investing in REITs: Real Estate Investment Trusts, 4th ed., Bloomberg Press, 2012。NOI・キャップレート・FFO/AFFOというREIT評価の標準語彙を実務視点で整理した文献。
本文
NAVの基本式:キャップレートの世界
REITと不動産ホールダーは、キャッシュフロー成長の物語よりも「資産の換金価値」で評価するのが筋である。物件価値は純賃料収入(NOI)を還元利回り(キャップレート)で割る。
物件価値 = NOI ÷ キャップレート
NAV = Σ物件価値 + 現金その他 − 有利子負債 − 優先出資証券
NOIは賃料収入から管理費・修繕・空室損失等を差し引いた実質収入であり、減価償却や金利は含まない。
数値例:NAV/口と暗示キャップレート
NOI 120百万円、キャップレート5%なら物件価値は2,400百万円。有利子負債1,400百万円を差し引き、NAVは1,000百万円。投資口数100万口ならNAV/口=1,000円。市場価格850円ならP/NAVは0.85倍で、NAVに対し15%のディスカウントだ。この価格が暗示する物件価値は、時価総額850百万円+負債1,400百万円=2,250百万円、暗示キャップレートは120/2,250≒5.33%である。「市場はこのポートフォリオに5.33%の利回りを要求している」という一文に翻訳できると、議論が具体化する。
レバレッジによる感度の非対称性
キャップレートが0.5ポイント動くと物件価値はどうなるか。4.5%では120/0.045≒2,667百万円、NAV/口は1,267円(+26.7%)。5.5%では120/0.055≒2,182百万円、NAV/口は782円(−21.8%)。物件価値の変動は+11%/−9%程度でも、固定負債1,400百万円がレバーとして働き、NAV/口の変動は−22〜+27%に拡大する。キャップレート感度は必ず「口ベース」で見ること。これがREIT株価のボラティリティが物件価格のそれより大きい構造的理由である。
配当利回りとの区別
REITは利益の大半を分配する義務があり、FCF≒分配金となる。しかし分配利回り(分配金÷投資口価格)とNOI利回り(NOI÷物件価値)は別物である。前者は金利負担・管理費・減価償却後で、後者はそれ以前の物件実力だ。さらに減価償却を加味したFFO、大規模修繕・テナント工事費を控除したAFFOという層があり、成長余地の診断にはAFFOが最も近い。具体例で確認しよう。NOI120百万円・運営費(償却除く)20百万円・金利70百万円・税率30%・減価償却40百万円のREITを考える。税前利益は120−20−70=30百万円、純利益は21百万円。FFOは純利益+償却=61百万円、経常修繕15百万円を引いたAFFOは46百万円となる。「純利益21 vs FFO61」という乖離がREIT会計の常態であり、分配可能水準の判定はFFO/AFFOベースで行うべき理由である。
サイト詳細式の分母を合わせる
本サイトのREIT詳細版は、10年後NOIから10年後維持CAPEXを控除したproperty_FCF10を、そのCFに対応する還元利回りで資本還元し、純負債と実現見込みの含み益税を一度だけ控除する。式は property_value10=(NOI10−maintenance_CAPEX10)/capitalization_yield である。この capitalization_yield は標準的なNOIキャップレートではなく、維持CAPEX控除後の不動産FCFに対応する資本化利回りである。NOIキャップレートを使うなら分子はNOI、AFFO利回りなら分子はAFFOでなければならず、NOI・AFFO・FCFEの分母を混ぜない。NOIに既に含めた日常修繕をmaintenance_CAPEXでも再控除してはならず、NOI10−maintenance_CAPEX10<=0なら算定停止する。有限借地権など満了がある資産を無期限に資本還元してはならない。
反例・失敗パターン
第一は満室想定のNOIを使うこと。空室・賃料回収不能はNOIの直接の減項であり、ほかの条件が同じなら稼働率低下分だけ実効賃料が減る。実務は「直近12ヶ月の実績NOI+来期リーシング計画」で置くのが安全であり、開発途中物件や非収益資産(駐車場・保育所等)はキャップ評価できず、コストベースか個別DCFで別枠にする。ポートフォリオ合算の前に「キャップ評価可能な資産」と「それ以外」を仕分けるのが手順の第一歩である。第二は修繕・テナント工事費を除いたNOIでキャップ評価すること。第三は低金利期のキャップレート(例えば4%)を恒常化すること。金利上昇局面ではキャップレートは広がる方向に偏る。
メリット・デメリットと適用条件
メリットは、(1)鑑定評価・実取引と突き合わせやすく、価値の裏取りが容易なこと、(2)P/NAVという明快な相対指標が得られること、(3)キャップレート感度で金利リスクが可視化できること。デメリットは、キャップレートの推定が循環的(市場価格から逆算しがち)なこと、鑑定評価のラグと保守性がポートフォリオによって異なること、開発物件・非収益資産の扱いが恣意的になりやすいこと。
適用条件は、収益不動産ポートフォリオを持つREIT・不動産会社。非適用条件は、開発販売主体(在庫の回転が価値の源泉)、ホテル運営などオペレーション収益主体の事業である。
本サイトの思想との接続
REITに一般企業FCFFを当てず、維持CAPEX控除後property FCFと対応利回りを揃える。簡易P/AFFOはcross_check、詳細income_yieldは分母整合、満了、純負債、含み益税の検査を通った場合だけprimary。P/NAVと暗示キャップレートは独立クロスチェックにし、主値と平均しない。
変数辞書
| 変数 | 意味 |
|---|---|
| NOI | 純賃料収入。賃料−管理費・修繕・空室損失。償却・金利を含まない |
| キャップレート | 還元利回り。NOI÷物件価値 |
| NAV/口 | (Σ物件価値+現金−負債−優先証券)÷投資口数 |
| 暗示キャップレート | 時価総額から逆算した市場要求利回り |
| FFO/AFFO | 償却加算後利益/さらに修繕・工事費控除後。成長診断用 |
推定方法
NOIは満室想定ではなく直近実績の稼働率ベースで置く。キャップレートは同エリア・同用途の実取引やJ-REIT市場の暗示レートを参照し、金利スプレッド(NOI利回り−長期金利)の履歴範囲で妥当性を確認する。
数値例
NOI120百万@5%→物件2,400百万円、負債1,400百万を引きNAV1,000百万円、100万口で1,000円/口。価格850円ならP/NAV0.85倍、暗示キャップレート=120/2,250≒5.33%。キャップ4.5%→1,267円/口(+26.7%)、5.5%→782円/口(−21.8%)。
反例
低金利期に観測された4%のキャップレートを恒常化してNAV/口1,500円を主張した反例。金利上昇局面ではキャップレートは広がる方向に偏り、同じNOIでも物件価値は大幅に下がる。レートは環境条件付きの値である。
利点/欠点
- 利点: 鑑定評価・実取引と照合しやすく裏取りが容易
- 利点: P/NAVという明快な相対指標が得られる
- 利点: キャップレート感度で金利リスクが可視化できる
- 欠点: キャップレート推定が循環的(市価から逆算しがち)
- 欠点: 鑑定ラグと保守性がポートフォリオごとに異なる
- 欠点: 開発物件・非収益資産の扱いが恣意的になりやすい
適用条件・非適用条件
適用できる場面: 収益不動産ポートフォリオを持つREIT・不動産ホールダー。
適用できない場面: 開発販売主体(在庫回転が価値の源泉)、ホテル運営などオペレーション収益主体の事業。
本サイト入力との対応
簡易P/AFFOはcross_check。詳細版はNOI10ではなく維持CAPEX控除後property_FCF10÷対応する還元利回り−純負債−実現見込み含み益税で、NOI/AFFO/FCFEの分母を揃え、有限満了を永久化しない場合だけprimary。 AI Protocol 1.10.0(更新日 2026-08-30): sector_id=reit、strategy=capitalized_income、theory_status=conditional、simple_role=cross_check、detailed_role=primary_if_all_gates_pass、primary_value_eligible=全門番・拒否条件・consistency_checks・単位・時点・希薄化検査の通過後だけtrue。 詳細式: 物件は維持CAPEX控除後property_FCF10/capitalization_yield−net_debt。有限インフラはyear11以降FCFEの有限年金+signed termination value、更新前提はFCFE11/(Ke−g) 式の門番: NOI・AFFO・FCFEの分母を混同しない。インフラは更新投資・可用性控除後FCFE10>0を必須とし、不成立なら株主資金不足を別途モデル化して算定停止。有限満了後を永久化しない。Gordon経路はKe−g 25bp以上 適用門番: PERではなくP/FFO・P/AFFO系の倍率で評価する前提に同意しますか?(期待回答=はい、理由=減価償却が大きくEPSは意味を持たない) / NETインカム(償却後利益)ではなくAFFO/NOIベースですか?(期待回答=はい、理由=償却込み利益は資産価値と乖離する) / 売却時に含み益税が生じる場合、その1口負担額を入力しましたか?(期待回答=はい、理由=税負担がない場合は0、ある場合はNAVから控除) / 金利上昇がキャップレートへ波及する前提ですか?(期待回答=はい、理由=低金利固定の倍率は過大評価になりやすい) 拒否条件: 一般企業FCFF DCFの機械適用禁止 / P/AFFO倍率評価とNOIキャップ評価の二重加算禁止 出力: value_at=year10、basis=perShare、unit=円/口。現在価値への橋渡し=today_theoretical_value = applicable_year10_value ÷ (1 + present_value_discount_rate)^10 + applicable_interim_distribution_PV。1株換算できる場合はbasis=per_share、総額のままならbasis=total_equity。年次配当・分配を0とする場合は過小評価警告。現在の理論価値と10年後価値は別欄・別キーで返す。全門番、拒否条件、モデル固有consistency_checks、単位・時点・希薄化検査を通過した詳細版だけ 整合検査: AFFOは維持CAPEX控除後、NOIは維持CAPEX控除前として分離 / 安定期不動産FCF資本化利回りの分母をNOI−維持CAPEXと一致させる / 現在維持CAPEXへ独立した維持CAPEX成長率を適用し、10年後純負債を同じ時点で控除 / 物件売却益・NAV含み益税・増資を一度だけ反映
精度の読み方
NAV/口1,000円は「キャップ5%が続くなら」の条件付き値。±0.5ポイントで782〜1,267円と動く以上、一点表示ではなくレンジで提示し、どちら端を取るかは金利見通しの議論として分離する。
よくある誤り
- 満室想定のNOIでキャップ評価する
- 修繕・テナント工事費を除いたNOIを使う
- 低金利期のキャップレートを恒常化する
技術付録
暗示キャップレート=(NOI)÷(時価総額+有利子負債)。優先出資証券がある場合はさらに加算。この逆算式は「市場が今どんな利回りを要求しているか」を毎週追跡するモニターとしても使える。
一次資料
- Block, Investing in REITs, 4th ed., Bloomberg Press, 2012
- Geltner, Miller, Clayton, Eichholtz, Commercial Real Estate Analysis and Investments, 3rd ed., Cengage Learning, 2014
- A. Damodaran, Investment Valuation, 3rd ed., Wiley, 2012
章末要約
- 物件価値=NOI÷キャップレート。例: 120百万@5%=2,400百万円、NAV1,000百万円
- 価格850円ならP/NAV0.85倍、暗示キャップレート5.33%に翻訳して議論する
- 固定負債がレバーとなり、キャップ±0.5ポイントでNAV/口は−22〜+27%動く
理解度クイズ
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