レベル: 応用 / 読了目安: 約30分 / 前提知識: キャップレートとNOIの関係(第34章相当)、法人税の初歩。四則演算が確実にできればよい。
学習目標
- 残余法(GDV−残工事費−販売費−税−案件負債)で案件NAVを計算できる
- 段階別達成確率による加重NAVの考え方と目的を説明できる
- GDV・残工事費・税の入力が監査可能かチェックできる
理論の起源
W. B. Brueggeman, J. D. Fisher, Real Estate Finance and Investments, 16th ed., McGraw-Hill, 2021。開発案件の残余法とリスク段階の考え方を標準的に扱う。D. Geltner et al., Commercial Real Estate Analysis and Investments, 3rd ed., OnCourse Learning, 2014 も開発価値の割引構造を詳述する。
本文
残余法(GDV方式)の基本式
不動産開発会社の企業価値は、会社単位のPERではなく開発案件ごとの残余法(NAV)で積み上げるのが実務の主流である。基本式は
案件株主NAV10 = GDV10 − 残工事費10 − 販売費・一般管理費10 − 税10 − 案件負債10
である。GDV(Gross Development Value、総開発価値)は分譲物件なら分譲予定総売上高、賃貸ならNOI ÷ キャップレートで見積もる。
数値例は全てyear10名目額とする。分譲マンション案件のGDV10=200億円、残工事費10=120億円、販売費等8億円、税21.6億円、案件純負債10=20億円なら、成功時の開発株主価値10は30.4億円である。会社NAVへ広げるときは、同じyear10時点の案件を合算し、本社費用と本社債務を一度だけ控除する。
条件付き段階確率
開発案件は段階によって不確実性が桁違いである。現行サイトは、評価日時点からyear10までの設計完了確率p_designと、「設計完了を条件とした」工事完了確率p_build_given_designを分け、p_stage=p_design×p_build_given_designを一度だけ計算する。
例: p_design=80%、p_build_given_design=75%ならp_stage=60%である。成功時開発価値30.4億円、未達時土地回収価値10億円−同じ案件負債20億円=0、10年後賃貸NAV5億円を両枝へ一度だけ足すと、success10=35.4億円、failure10=5億円、value10=0.60×35.4+0.40×5=23.24億円となる。無条件の「設計80%」と「工事75%」を別々の案件価値へ掛けて足したり、既に確率調整済みGDVへp_stageを再度掛けたりしてはいけない。
入力の監査ポイント
①GDVの単価は近傍実勢か計画(希望)単価か。②残工事費は最新原価見積もりか初期計画か(資材高騰を反映しているか)。③販売費は代理店手数料・広告費の実績ベースか。④税は土地増値税等の地域固有税目を含むか。⑤案件負債は元本のみか利息込みか。この五点が監査チェックリストになる。
タイミングも重要である。残余法は名目金額をそのまま差し引く簡便法で書かれることが多いが、竣工まで3年ある案件は残工事費と売上を割り引いて厳密に評価できる。割引を省略するなら「早期完工・高単価バイアス」が乗ることを自覚する。
賃貸型案件の例も確認する。NOI10億円、キャップレート5.0%ならGDV = 10/0.05 = 200億円。残工事費140億円、運営開始費用等10億円とすれば税引前利益50億円、税30%の15億円を差し引き35億円、案件借入25億円を返済して株主NAVは10億円となる。分譲型と異なりGDVが利回りの関数であるため、キャップレートが0.5ポイント下がって4.5%になるだけでGDV = 10/0.045 ≈ 222億円、NAVは25.4億円へ2.5倍以上に動く。どの入力が支配的かは案件ごとの感度表で確認すべきであり、「利回りの選択」こそ最大の仮定である。
サイト詳細版の時点・確率・負債
本サイトは成功枝と失敗枝を同じyear10時点へ揃える。success10=max(0, GDV10×(1−残工事費・販売費・税率)−project_net_debt10)+rental_NAV10、failure10=max(0, land_recovery10−project_net_debt10)+rental_NAV10 とし、案件負債を両枝から控除する。失敗時だけ負債を消す、成功時だけ賃貸NAVを足す、といった非対称を作らない。
段階確率は、設計完了確率×設計完了を条件とした工事完了確率のように条件付き確率を一度だけ掛ける。value10=p_stage×success10+(1−p_stage)×failure10であり、既に確率調整済みGDVへ再びp_stageを掛けてはいけない。詳細版はこの時点・枝・確率の整合を全て通った場合だけprimary候補になる。
反例・失敗パターン
第一の失敗はGDVに希望売価を使い近傍実勢を確認しないこと。第二は残工事費の更新忘れ(資材・人件費高騰の未反映)。第三は全案件を100%確度で合算し土地取得前案件も満額計上すること。第四は案件負債と本社負債の二重計上または漏れ。第五は本社経費・本社スタッフ費用の控除忘れで、案件合算NAVから会社NAVへの橋渡しで必ず発生する項目である。
メリットとデメリット
メリットは、価値の源泉が案件単位で可視化されること、売却・撤退判断にそのまま使えること、時価純資産方式との突合で過大・過小の所在が分かることである。デメリットは、入力が多く恣意の余地が広いこと、達成確率の根拠が主観的になりやすいこと、案件数が多いと更新の手間が膨大なことである。
適用条件・非適用条件
適するのは分譲・賃貸開発を主業とするデベロッパーとプライベート不動産ファンドの評価である。非適用は開発ではなく保有収益が主の不動産会社(NOI÷キャップレートの直接還元が妥当)、施工を受注で行うゼネコン(PBR×ROEが妥当)。
本サイトの思想との接続
残余法は「価値=資産−負債」の透明な算術である。簡易sotp_navはcross_check、詳細probability_gdv_navは成功・失敗をyear10へ揃え、案件負債と賃貸NAVを両枝で一度、条件付き段階確率を一度だけ反映した場合のみprimary。入力は観測事実・推定・仮定へ分ける。
変数辞書
| 変数 | 意味 |
|---|---|
| GDV | 総開発価値。分譲予定総売上高またはNOI÷キャップレート |
| 残工事費 | 着工後の未施工分の原価見積もり |
| 販売費 | 広告費+代理店手数料等。GDVの3〜5%が目安 |
| 税 | 法人税等。利益に対する実効税率で簡略化する |
| 案件負債 | 当該プロジェクトの借入。株主NAVから控除 |
| 達成確率 | 段階別の完成・消化確率。仮定であり根拠を併記 |
推定方法
GDV単価は近傍取引事例と市場在庫から、残工事費は最新原価見積もりから推定する。賃貸型はNOIとキャップレート(周辺取引利回り)から。達成確率は許認可進捗・資材契約・販売速度の証拠から設定する。
数値例
year10成功価値30.4億、未達時土地回収10−案件負債20=0、賃貸NAV5を両枝へ加算。p_stage=設計80%×条件付き工事75%=60%ならvalue10=0.60×35.4+0.40×5=23.24億円。
反例
土地取得前の大型案件を100%達成前提で満額計上し、会社NAVが時価純資産の2倍になるという報告書。許認可が未了の案件を確定価値として扱った典型の反例で、段階別確率を入れるだけでNAVは半減しうる。
利点/欠点
- 利点: 価値の源泉が案件単位で可視化される
- 利点: 売却・撤退判断にそのまま使える
- 利点: 時価純資産との突合で誤差の所在が分かる
- 欠点: 入力が多く恣意の余地が広い
- 欠点: 達成確率の根拠が主観的になりやすい
- 欠点: 案件数が多いと更新コストが膨大
適用条件・非適用条件
適用できる場面: 分譲・賃貸開発主業のデベロッパー、プライベートREIT・不動産ファンド持分の評価。
適用できない場面: 保有収益主体の不動産会社(直接還元法)、受注施工主体のゼネコン(backlog_profit_multiple)。
本サイト入力との対応
簡易版はcross_check。詳細版は成功・失敗をyear10へ揃え、案件負債と賃貸NAVを両枝へ一度ずつ、p_stage=設計完了確率×条件付き工事完了確率を一度だけ反映する。全門番通過時のみprimary。 AI Protocol 1.10.0(更新日 2026-08-30): sector_id=real_estate_dev、strategy=sotp_nav、theory_status=conditional、simple_role=cross_check、detailed_role=primary_if_all_gates_pass、primary_value_eligible=全門番・拒否条件・consistency_checks・単位・時点・希薄化検査の通過後だけtrue。 詳細式: success10 = max(0, GDV10×(1−remaining_cost_and_tax_pct)−project_net_debt10)+rental_NAV10; failure10=max(0,land_recovery10−project_net_debt10)+rental_NAV10; value10=p_stage×success10+(1−p_stage)×failure10 式の門番: 成功・失敗を同じ10年時点に揃え、案件負債を両枝から控除。費用率>100%も黙って100%へ丸めず、成功枝・失敗枝を各々0で下限処理した後に条件付き確率を一度だけ掛ける 適用門番: GDVは周辺相場・申込状況から妥当性確認済みですか?(期待回答=はい、理由=楽観GDVが最大の失敗要因) / 残工事費に販売費・税まで含めていますか?(期待回答=はい、理由=残余法は全費用控除が原則) / 賃貸資産と開発案件を二重計上していませんか?(期待回答=いいえ、理由=同一敷地の重複評価禁止) / 段階別確率(設計/着工/竣工)を分けていますか?(期待回答=はい、理由=初期段階案件は確率を落とす) / 10年後GDV成長は完了案件を新規案件で補充するローリング案件群の前提ですか?(期待回答=はい、理由=同じ有限案件を10年間成長させない) 拒否条件: 賃貸資産との重複防止 / 未取得土地を完成GDVで評価しない 出力: value_at=year10、basis=total、unit=億円。現在価値への橋渡し=today_theoretical_value = applicable_year10_value ÷ (1 + present_value_discount_rate)^10 + applicable_interim_distribution_PV。1株換算できる場合はbasis=per_share、総額のままならbasis=total_equity。年次配当・分配を0とする場合は過小評価警告。現在の理論価値と10年後価値は別欄・別キーで返す。全門番、拒否条件、モデル固有consistency_checks、単位・時点・希薄化検査を通過した詳細版だけ 整合検査: 成功・失敗の両シナリオで10年後案件純有利子負債を控除 / 費用率が100%を超えても100%へ丸めず負の成功案件NAVを認識し、成功枝・失敗枝を別々に0で下限処理してから確率加重する / GDV成長は同一案件でなくローリング案件群 / 段階確率は評価日時点から10年後までの設計完了確率×設計完了後の着工〜竣工条件付き確率 / 10年後GDV・費用・賃貸NAV・土地回収価値・完了確率の時点を一致
精度の読み方
NAVはGDV単価±10%で概ね±2〜3割動く。加重NAVは一点でなくGDV×p_stageのレンジで読み、設計確率と条件付き工事確率を別軸にした感度表を添える。
よくある誤り
- 希望売価のまま近傍実勢を確認せずGDVを据え置く
- 資材高騰を残工事費に反映し忘れる
- 本社費用・本社債務を控除せず案件合算だけを会社NAVと呼ぶ
技術付録
賃貸型のGDV = NOI ÷ キャップレートでは、キャップレート0.5ポイントの差が価値でおよそ1割強動く(例: NOI10億、5.0%→200億、4.5%→222億)。また税の簡略化(一律30%)は土地増値税や軽減措置で実勢とずれるため、大規模案件では個別試算が望ましい。
一次資料
- W. B. Brueggeman, J. D. Fisher, Real Estate Finance and Investments, 16th ed., McGraw-Hill, 2021
- D. Geltner, N. Miller, J. Clayton, P. Eichholtz, Commercial Real Estate Analysis and Investments, 3rd ed., OnCourse Learning, 2014
章末要約
- 案件NAV = GDV−残工事費−販売費−税−案件負債の残余法で積む
- 成功・失敗をyear10へ揃え、案件負債を両枝から控除し、条件付き段階確率を一度だけ掛ける
- GDV単価・残工事費・税の五点チェックリストで入力を監査する
理解度クイズ
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