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用語辞典

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掲載語数: 97語

PART1 価値の基本(15語)

内在価値
企業が生涯にわたって生み出すキャッシュフローの現在価値として理論上定まる、株券そのものの適正な値打ち。市場価格は常に周囲で揺れ動くが、内在価値は事業の実力によって決まり、両者の差こそが投資機会の源泉となる。
現在価値
将来の時点で受け取るキャッシュフローを、金利(割引率)で割り戻して今日の時点に換算した価値。割引率5%で3年後の100万円は100÷1.05³≈86.4万円となり、受け取りが遠いほど、割引率が高いほど小さくなる。
複利
発生した利息を元本に組み入れ、次期以降はその合計に対して利息を付ける仕組み。年5%で100万円を運用すると2年目には110万2500円となり、単利との差は期間とともに拡大する。「複利は世界第八の不思議」とも呼ばれる。
割引率
将来のキャッシュフローを現在価値へ換算する際に用いる利率。資金の時間的機会費用とリスクへの補償を合わせ込んだもので、割引率を1%上げるだけで評価額は大幅に下がるため、設定根拠の明示が不可欠となる。
PER
株価収益率。株価を1株当たり純利益(EPS)で割った倍率で、「株価は利益の何年分か」を読み取る指標。今期予想ベースでは予想PER、直近実績ベースでは静的PERと呼び分けられ、業種や成長性により妥当水準が大きく異なる。
PBR
株価純資産倍率。株価を1株当たり純資産(BPS)で割った倍率で、市場が純資産の何倍の値をつけているかを示す。1倍を割れる場合は市場が資産の毀損や将来収益の劣化を織り込んでいる可能性があり、単純な「割安サイン」ではない。
EV
企業価値(Enterprise Value)。時価総額に純有利子負債(有利子負債から現金等を控除)や非支配持分などを加えた、会社丸ごとの取得にかかる総コスト。営業資産全体が生むキャッシュフローの評価対象となり、EV/EBITDAなどの分母として使う。
EV/EBITDA倍率
企業価値をEBITDA(税引前・支払利息控除前・減価償却費控除前利益)で割った倍率。減価償却や資本構成の違いによる歪みを受けにくく、設備投資の重い業界や国際比較でよく使われる。低いほど割安だが、業種ごとの水準比較が前提。
ROE
自己資本利益率。当期純利益を自己資本(株主資本)で割った収益性指標で、株主が出した資本がどれだけの利益を生んだかを測る。ROEが資本コストを上回り続ける企業は株主価値を毀損しない。財務レバレッジで吊り上げられている場合は注意が必要。
ROA
総資産利益率。当期純利益を総資産で割った指標で、会社が抱える資産全体がどれだけ効率的に利益を生んでいるかを示す。レバレッジの影響を含まないため、ROEと並べて見ると収益性の源泉が営業力か財務かを見分けられる。
配当利回り
1株当たり配当金を株価で割った比率で、投資額に対する1年間の配当収入の割合。「1株配当÷株価」で算出し、予想ベースと実績ベースがある。高利回りは魅力的に見えるが、減配リスクや株価下落を織り込んでいないかの確認が必須。
配当性向
当期純利益のうち配当金として株主に還元する割合。「配当金総額÷当期純利益」で求める。低すぎれば還元姿勢の弱さ、高すぎれば利益変動時の減配リスクを示唆し、事業の安定性に応じた適正水準が変わる。
PEGレシオ
PERを1株利益の成長率(%)で割った指標で、成長率に対して株価が割高か割安かを見る。1倍を基準とし、0.5なら成長に比べ割安、2以上なら割高と読むのが目安。ただし成長率予想の精度に結果が大きく依存する。
マージン・オブ・セーフティ
安全域。推定した内在価値より十分低い価格で買うことで、見積もりの誤りや予期せぬ悪化に対する緩衝を確保する考え方。バリュエーションは精度の限界がある以上、「正しい数字」よりも「大きな割引幅」で守る思想。
相対評価(マルチプル法)
類似企業や過去の取引倍率と比較して対象企業の価値を推定する手法。PER、EV/EBITDAなどが代表例。計算は簡単だが、比較対象の選択や会計政策の差異が結果を左右し、市場全体が割高なときには歪みも一緒に写り込む。

PART2 財務諸表とCF(15語)

貸借対照表(B/S)
一定時点の財政状態を写す計算書。左側(借方)に資産、右側(貸方)に負債と純資産を記載し、「資産=負債+純資産」が常に成立する。企業の体力、資産の質、負債の構造を読む出発点となる。
損益計算書(P/L)
一定期間の経営成績を示す計算書。売上から順に原価、販管費、営業外損益、特別損益を差し引き、当期純利益までを段階的に表示する。どこまでの費用を差し引いた段階の利益を見るかで、評価の意味が変わる。
キャッシュフロー計算書
一定期間の現金の増減を、営業・投資・財務の3活動別に整理した計算書。利益は会計処理次第で変わり得るが、現金の流れは改ざんしにくいため、黒字倒産の検出や利益の質の検証に欠かせない。
営業CF
本業の活動による現金の増減。税引前利益に減価償却費などを加え、売掛金や棚卸資産などの運転資本増減を反映させて算出する。継続的なプラスが本業の健全さの基本条件で、利益との乖離は要説明事項となる。
投資CF
有形固定資産や無形資産の取得・売却、有価証券の売買など、資産への投資による現金の増減。成長投資が進む局面ではマイナスが正常であり、営業CFとの合計(FCF)で資金創出力を判断する。
財務CF
借入と返済、社債発行、増資、自社株買い、配当支払いなど、資金調達と返済による現金の増減。営業CFと投資CFの不足を補うのが本来の役割で、恒常的にマイナスでも健全なのは返済・還元が進んでいる場合である。
フリーキャッシュフロー
営業CFから設備投資など必要な投資額を差し引いた、債権者と株主に自由に分配できる現金。企業価値の源泉そのものであり、DCFモデルの直接的な材料。定義(投資の範囲)が論者により異なるため確認が必要。
EBITDA
税引前利益に支払利息と法人税を加え、さらに減価償却費を足し戻した「利払い前・税引前・償却前利益」。資本構成や償却政策の違いを消して稼ぐ力を比較できる一方、設備更新費用を考慮しない過大評価に注意が必要。
営業利益
売上総利益から販管費を差し引いた、本業の採算を示す利益。一時的な損益を含みにくいため、事業そのものの競争力と収益構造を評価する際の基準点となる。日本基準では営業外損益は含まない。
経常利益
営業利益に受取利息や配当金などの営業外収益、支払利息などの営業外費用を加減した利益。本業と財務活動の影響を合わせた日常的な収益力を示す。日本基準特有の区分で、IFRSには対応する概念がない。
当期純利益
すべての損益(特別損益・税金を含む)を反映した最終的な利益。EPSやROEの分子となり、内部留保を通じて純資産を増加させる。一時的要因が混ざるため、トレンド判断では経常利益と併用する。
有利子負債
借入金や社債など、利息の支払いを伴う負債。返済義務と金利負担を持つため、レバレッジの源泉であると同時に財務リスクの中心。短期と長期の構成、返済スケジュール、平均金利まで見て初めて評価が完結する。
運転資本
売上債権・棚卸資産から仕入債務を差し引いた、営業循環に必要な資金。事業の成長は通常、運転資本の増加(現金の流出)を伴うため、売上成長だけを見て現金需要を見誤ると資金繰りの誤診につながる。
現金変換サイクル
CCC。仕入れから販売・回収までに現金が拘束される期間を、「在庫回転期間+売上債権回転期間−仕入債務支払期間」で測る。短いほど自己資金の負担が軽く、ビジネスモデルの資本効率の良さを映す。
自己資本
株主からの払込資本と利益の内部留保からなる純資産部分。返済義務がなく、欠損が出たときに最初にダメージを吸収するクッション。厚いほど財務的に安全だが、使い道のない過剰資本は資本効率の低下を招く。

PART3 割引率と成長(15語)

WACC
加重平均資本コスト。株主資本コストと負債コスト(利払い税シールドの限界税率Tshieldで調整後)を、市場価値または合理的な目標市場価値のE/V・D/Vで加重平均した企業全体の資金調達コスト。DCFではFCFFの割引率として用い、ROICがWACCを上回る経営が価値を創造する。NOPAT用の現金税率とは分け、NOL等でシールドを使えない場合は調整する。
リスクフリーレート
信用リスクがほぼないとされる長期国債利回りで、資本コストの土台となる利率。あらゆる投資の期待リターンはこの上に各種リスクプレミアムを積み上げて構築され、金利環境の変化はバリュエーション全体を揺らす。
ベータ
個別銘柄のリターンが市場全体の動きに対してどれだけ敏感かを示す係数。1なら市場と連動、1超はハイベタ(増幅)、1未満はディフェンシブ。CAPMにおいて株主資本コストの決定要素となる。企業間比較では事業リスクを表すunlevered βUを目標市場価値D/EでreleverしてβLを作り、既に目標D/Eに対応したβを二重調整しない。
マーケットリスクプレミアム
株式市場全体がリスクフリーレートに対して要求する追加リターン。歴史実績ベースとインプリード(期待)ベースがあり、採用値で株主資本コストが大きく変わるため、DCFの最重要かつ最大の恣意ポイントの一つ。
CAPM
資本資産価格モデル。株主資本コストを「リスクフリーレート+ベータ×マーケットリスクプレミアム」で表す標準的な枠組み。分散化されたポートフォリオでは個別リスクは消え、市場リスクのみが補償対象になるという考えに立つ。
株主資本コスト
株主がその銘柄への投資に要求する期待リターン。DCFで株式価値を求める際のFCFEや配当の割引率であり、これを下回るリターンしか生めない経営は株主価値を実質的に毀損していると解釈される。
負債コスト
債権者に支払うべき税前金利。利息の税シールドを反映するWACCでは「負債コスト×(1−Tshield)」として扱う。TshieldはNOPAT用の現金税率とは別の利払い税シールド用限界税率で、NOL等により当面控除できない場合は利用可能性に応じて調整する。信用力が落ちると負債コストが上昇し、資本コスト全体を押し上げる。
Tshield(税シールド用限界税率)
利払いによる課税所得の減少効果をWACCへ反映するための限界税率。NOPAT計算に使う現金税率と同じとは限らず、NOL・税額控除・利息控除制限などで将来の利用可能性が低い場合は引き下げる。
永久成長率
ターミナルバリュー計算で、最終年度以降のキャッシュフローが永続的に伸びると仮定する率。経済全体の長期成長(インフレ込みで概ね2〜3%程度)を超えられないという制約があり、ここを0.1%変えるだけで評価額が数%動く感覚を持つこと。
ターミナルバリュー
明示予測期間の終点以降の価値をまとめて評価したもの。永久成長率法(ゴードンモデル型)と出口倍率法がある。DCF評価額の7割前後を占めることも多く、ここに仮定が集中していることを常に自覚すべき箇所。
再投資率
稼いだ利益のうち、成長のために設備や運転資本へ再び投じる割合。成長率は「ROIC×再投資率」で近似でき、再投資を増やしてもROICが資本コスト未満なら成長は価値を毀損するという重要な帰結を導く。
ROIC
投入資本利益率。NOPATを有利子負債と株主資本からなる投入資本で割った収益性指標。事業に預けた資金全体がどれだけの税引後営業利益を生むかを測り、WACCとの差(スプレッド)が価値創造の有無を直接判定する。
NOPAT
Net Operating Profit After Tax。営業利益から税金相当分(実際の支払利息の影響を除外した形)を差し引いた、純粋な事業活動の税引後利益。ROICやFCFFの起点となる指標で、資本構成の影響を排除した稼ぐ力を表す。
名目成長率と実質成長率
物価変動を含むのが名目、除いたのが実質。キャッシュフローの予測と割引率は必ず同じ基準で揃える必要があり、実質CFを名目WACCで割るといった混在は系統的な評価ミスを生む。インフレ前提の長期予測では特に注意。
カントリーリスクプレミアム
新興国など政治・為替・法制リスクの高い市場で事業を行う場合に、資本コストへ追加で上乗せするプレミアム。国債利回り差や格付けをもとに推定されるが、事業の海外比率に応じて按分するかどうかでも結果が変わる。

PART4 モデル別用語(14語)

DCF
ディスカウンテッド・キャッシュフロー法。将来のフリーキャッシュフロー予測をWACCで割り引いて現在価値を合計し、企業価値を直接算定する絶対評価の代表格。仮定がすべて明示される反面、感度が極めて高い。
FCFF
企業自由キャッシュフロー。全ての資金提供者(債権者+株主)が自由に使えるキャッシュで、「NOPAT+減価償却−設備投資−運転資本増加」で算出。WACCで割り引いて企業価値を得る、DCFの標準的な被評価対象。
FCFE
株主自由キャッシュフロー。借入の純増減を含め、株主だけが利用可能なキャッシュを表す。FCFFから税引後利払いと純借入を調整して求め、株主資本コストで割り引くと直接、株式価値が得られる。
配当割引モデル
DDM。将来の配当金を株主資本コストで割り引いて株式価値を求める最も古典的なモデル。配当を明示的に扱うため理論整合性が高いが、自社株買い主体の企業や無配成長企業には適用しにくい。
残余利益モデル
純資産簿価に、将来の残余利益(利益−資本コスト×期首純資産)の現在価値を加えて株式価値を求めるモデル。会計数値と直接つながるため、配当やCFが不安定な企業の評価に強く、異常会計への感受性も高い。
残余利益
当期利益から「期首純資産×株主資本コスト」で求める資本コスト分を差し引いた超過利益。ゼロなら株主は要求リターンをちょうど満たしており、プラスの持続こそが帳簿価値を超える価値の源泉となる概念。
TBVPS
1株当たり有形純資産(Tangible Book Value Per Share)。純資産から商標やのれんなどの無形資産を除き、発行済株式数で割った値。資産型企業や金融機関の清算価値・下値目安の議論でよく用いられる。
希薄化
新株予約権や転換社債の行使・転換、増資などで発行済株式数が増え、既存株主の持ち分と1株当たり価値が薄まる現象。潜在株式を含む希薄化後EPSでの評価や、行使代りの資金流入の同時考慮が必要。
純有利子負債
Net Debt。有利子負債から現金及び現金同等物(必要に応じて有価証券も)を差し引いた正味の債務。EVの算出やLBOのレバレッジ管理の基本単位で、同じ有利子負債でも現金保有の多寡で実質負担は大きく違う。
クリーンサプラス
Clean Surplus。期首純資産+当期利益−配当=期末純資産、という関係が会計上ずっと成立すること。残余利益モデルの理論的前提であり、そのままでは成立しない項目(自己株式消却差益など)がある場合には調整が必要。
エンタープライズ・エクイティ・ブリッジ
企業価値(EV)から純有利子負債・非支配持分・優先株などを控除して株式価値へ橋渡しする調整作業。年金債務や少数株主持分の扱いを忘れると評価額が大きくずれ、モデルの最後の詰めとして最も事故が起きやすい箇所。
マルチステージモデル
成長期・移行期・成熟期のように成長率を段階的に切り替えて将来CFを予測する枠組み。単一段階の永久成長仮定より現実に近いが、境界年の設定と各段階間の整合(成長率の滑らかな接続)に注意を要する。
エグジット・マルチプル法
ターミナルバリューを、最終年度の利益やEBITDAに妥当な倍率を掛けて算出する方法。永久成長率法と併用して結果の妥当性を相互チェックでき、倍率の根拠(類似企業・過去取引)を明示することが条件となる。
逆DCA(裏側検証)
現在の株価が成立するために必要な成長率・マージン・割引率を逆算して求め、「市場はどんなシナリオを織り込んでいるか」を検証する手法。自分の予想が市場の暗黙の仮定より本当に優れているかの自問を強制する。

PART5 業種別用語(14語)

NIM
Net Interest Margin。銀行の貸出金利回りと預金利回りの差(純利回り)を、概ね有利子負債残高で割った収益性指標。金利環境や貸出ポートフォリオの質を映し、銀行バリュエーションの出発点となる。
RWA
Risk-weighted Assets。貸出先の信用度や資産の種類に応じてリスクウェイトを掛けて算出したリスク調整後資産。銀行の保有資本はRWAに対して最低水準が規制されており、RWAの膨張は資本充実度を直接圧迫する。
TCE
Tangible Common Equity。普通株主に帰属する資本から、のれんや無形資産を控除した「有形の自己資本」。米国銀行株の分析でTCE比(TCE÷有形資産)が下値堅牢さの目安に使われる、保守的な資本指標。
コンバインドレシオ
損害保険の収益性指標で、保険引受費用(損失率+費用率)を保険料収入で割った比率。100%未満なら引受業務だけで利益が出ていることを意味し、投資収益に頼らない本業の強さを測る物差しになる。
ソルベンシー・マージン比率
保険会社が予想を超えるリスクに直面した際の支払余力を示す規制指標。純資産等をリスク量で割った値で、200%が監督上の基準線。市場急変時の含み損で急落し得るため、内訳と変動要因の把握が重要。
cap rate
キャップレート(還元利回り)。不動産の年間純収益(NOI)を物件価格で割った利回り。「価格=NOI÷cap rate」の関係で、cap rateの低下は価格上昇を意味する。金利とのスプレッドが投資判断の中心的材料。
NOI
Net Operating Income。賃料収入から管理費・固定資産税等の物件運営費用を差し引いた不動産の純収益。cap rate算定の分子であり、空室率や共益費の扱いで数値が動くため、定義の統一が前提になる。
FFO
Funds From Operations。REITの業績指標で、純利益に減価償却費を加え、不動産売却損益を除いたもの。不動産は償却しても価値が零にならない前提に立ち、通常のEPSでは見えないキャッシュ創出力を可視化する。
NAV(不動産)
Net Asset Value。保有物件を時価(鑑定価額やcap rate評価)に置き換えた純資産価値。REITや不動産会社では時価総額がNAVを上回るプレミアム/下回るディスカウントで相対的な割安度を測る。
ARR
Annual Recurring Revenue。サブスクリプション契約を年間換算した経常収入。単月の受注を12倍するなどで算出し、売上の「将来の見通し」を表す。一度切りの売上とは区別され、SaaS評価の中軸指標。
NRR
Net Revenue Retention。既存顧客の1年前のARRに対し、アップセル・ダウングレード・解約を反映した現在のARRの比。100%超なら解約があっても既存顧客からの収入が純増しており、SaaSの質を測る最重要指標の一つ。
GRR
Gross Revenue Retention。アップセルを一切含まず、既存顧客の解約・ダウングレードのみで測る維持率。NRRは拡張で隠れても、GRRは素の定着力を暴くため、両者を並べると成長の質が判別できる。
rNPV
risk-adjusted NPV。新薬開発など確率的なイベントを伴う案件で、各開発段階の成功確率(PoS)をキャッシュフローに乗じた上で割り引く手法。バイオ医薬品のバリュエーション標準であり、確率の根拠が結果を支配する。
LTV/CAC
顧客生涯価値(LTV)を顧客獲得コスト(CAC)で割った比率。3倍以上が健全の目安とされ、回収期間(CACペイバック)と併せてユニットエコノミクスの良し悪しを判定する。LTVの楽観計算が典型的な失敗点。

PART6 分析と検証(12語)

感度分析
成長率や割引率など主要な仮定を一定幅で動かし、評価額がどう変わるかを表に整理する分析。バリュエーションの結論がどの仮定に最も依存しているかを可視化し、単一点の数字への過信を防ぐ基本的な防御策。
シナリオ分析
楽観・基準・悲観など複数の整合的な未来像を描き、それぞれで評価額を算出する手法。確率加重で期待値を出すこともあるが、それ以上に「どの変数が連動して動くか」の構造理解を深めることが目的。
モンテカルロ・シミュレーション
仮定を確率分布として与え、乱数により数千〜数万回の試行を繰り返して評価額の分布を得る手法。単一の答えではなく「この範囲に収まる確率」という形式でリスクを表現できる。
バックテスト
過去のデータに投資戦略やモデルを適用し、成績を検証する作業。生存バイアスや先読みバイアス(未来情報の使用)が入りやすく、手数料やスリッページの考慮なしでは過大な成績になりやすい。
反証可能性
自分の予想やモデルが「何が起きたら間違いだったと言えるか」を事前に具体化しておく姿勢。反証条件のない主張は検証不可能であり、投資判断では買い根拠と同時に撤退条件を言語化することが求められる。
確証バイアス
自分の仮説を支持する情報ばかり集め、反対の証拠を軽視・無視してしまう認知の偏り。バリュエーションでは「割安だと思いたい」心理が働きやすく、あえて反対意見を探す習慣でのみ部分的に対処できる。
サバイバーシップ・バイアス
廃業・上場廃止になった企業がデータから抜け落ちているために、過去の成績が実態より良く見える偏り。ファンドの過去リターン統計や銘柄スクリーニングの検証で特に注意が必要な罠。
平均回帰
極端に高くなった利益率・成長率・倍率が、長期的には業界平均や歴史的水準へ戻る傾向。バリュエーションでは「現在の好業績が永続する」という仮定の危うさを戒める基本原理として機能する。
レジーム転換
インフレ環境、金利水準、規制、技術パラダイムなど、市場を律する前提そのものが変わること。過去データに学んだ関係性や妥当倍率が一斉に無効化され得るため、モデルの外側にある前提の点検が要る。
アンカリング
最初に見た数値(アナリスト目標株価、過去株価、自分の以前の評価額)に判断が引きずられる認知バイアス。評価をやり直す際は、前回の数字を伏せた状態で独立に計算し直すことが有効とされる。
クロスチェック
DCFの結果をマルチプル法、残余利益モデル、逆DCAなど別系統の手法と突き合わせ、矛盾を探す検証プロセス。単一モデルの誤りや仮定の漏れを捕捉する最も安価で効果的な安全装置。
アウト・オブ・サンプル検証
モデル構築に使っていない期間や銘柄のデータで予測精度を確かめる検証。訓練データへの当てはまりの良さ(過剰適合)と実戦での性能は別物であり、予測モデルの信頼性判定には欠かせない。

PART7 会計・規制(12語)

のれん
買収価格のうち、取得した純資産の時価を超える部分に計上される無形資産。優れた収益力やシナジーへの対価だが、毎期の減損テスト対象であり、のれん償却前の利益と実態の乖離には注意を要する。
減損
資産の回収可能価額が帳簿価額を下回ったと判断される際に、帳簿価額を切り下げて損失計上する会計処理。工場閉鎖や事業撤退で一挙に発生し、過去の投資判断の誤りを遅れて顕在化させる。
二重計上
同一の経済価値やキャッシュフローを、モデルの中で二度勘定してしまう誤り。例:FCFから既に利払いを引いたのに負債も控除する、シナジーをCFと倍率の双方に盛る等。ブリッジ項目の定義確認で防ぐ。
CSM
Contractual Service Margin。IFRS17保険会計で、保険契約の将来のサービス利益を契約開始時に繰り延べ、保険サービスの提供に応じて解放していく勘定。生命保険の利益認識を大きく変えた中核概念。
GDV
Gross Development Value。不動産デベロッパーの開発完了後に想定される総売却価値。建設費や期間費用を差し引く前にあたる総額で、開発案件の粗利潤(GDV−総原価)の規模感を測る起点となる。
rate base
電力・ガス・水道など料金規制事業で、事業に投入することを認められた資産の基礎額。許可報酬はrate base×認可報酬率で決まるため、設備投資が確実に収益基盤の拡大として返ってくる構造の核心。
収入上限規制
Revenue Cap Regulation。独占事業の料金を「許容収入=rate base×報酬率+運営費」の上限で規制する方式(英国RPI-X規制など)。コスト削減努力がそのまま利益になる一方、投資の質の低下リスクには規制側の監視が要る。
税効果会計
会計上の利益と課税所得の差異を解消するため、将来の税負担・税還付を見積もって計上する会計。繰延税金資産は将来の黒字が見込める場合にしか認識できないため、その認識判断自体が経営予測の開示となる。
繰延税金資産
税務上の欠損金や一時差異により、将来の納税額を減らせる権利を資産計上したもの。回収可能性(将来利益の見込み)が乏しいなら評価性引当金で抑制され、計上額の大小で純利益が大きく動く項目。
キャピタライズ
本来は費用となる支出を資産計上(資本的処理)にすること。ソフトウェア開発費や開発研究費で多用され、資産計上なら利益とCFが改善して見える。償却方針と合わせ、費用化基準の一貫性を確認したい科目。
プロフォーマ
Pro forma。会社発表の実績数値に、のれん償却や一時的費用の除去、買収相当分の合算など独自調整を施した参考数値。実態理解には有用だが調整の恣意性を孕むため、必ずベースの法定数値と突き合わせて使う。
リース会計
賃貸借取引を、使用権資産とリース負債の計上として貸借対照表にオンバランスさせる会計基準(IFRS16等)。オフバランスだったリース負担が可視化され、EVや純有利子負債の算定にも調整が波及する。