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初心者向け・理論株価の教科書

たとえ話と具体例で、現在の理論株価・10年後の価値・業種別モデルの考え方を学ぶ。

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II · 基本モデル

第14章 FCFE DCF

読了の目安 約4分

前章で組み立てたFCFF DCFは、「企業全体(パイ全体)」の価値をまず計算し、そこから債権者の取り分を差し引くことで、株主価値にたどり着く、という「間接的」なアプローチだった。この章で扱うFCFE(Free Cash Flow to Equity)DCFは、これとは対照的に、最初から「株主に帰属する取り分」だけを直接予測し、それを直接、株主資本コストで割り引くという、「直接的」なアプローチである。

FCFEとは何か:債権者との資金のやり取りまで織り込んだキャッシュフロー

FCFEの算出式は、FCFFを出発点として、そこから債権者との間のキャッシュのやり取りを調整することで導出される。

FCFE = FCFF − 支払利息 × (1−実効税率) + 新規の借入 − 借入金の返済

前章のFCFFの計算では、あえて支払利息の影響を除外していたことを思い出してほしい。FCFEでは、逆にこの支払利息(税金の節税効果を調整した後の、実質的な負担額)を、株主の取り分からきちんと差し引く。加えて、その期間中に新たに銀行から借入を行った場合はその分を株主の取り分に足し戻し(借りたお金は、その時点では株主にとって利用可能な資金となるため)、逆に借入金を返済した場合はその分を差し引く。

こうして計算されるFCFEは、まさに「その期間、株主だけに帰属する、正真正銘の分配可能キャッシュフロー」を表しており、第12章で扱ったDDMにおける「配当」という概念を、より広く、より柔軟に拡張したものだと理解できる。DDMは「実際に支払われた配当」だけを見ていたが、FCFEは「配当として支払われたかどうかにかかわらず、理論上、株主に分配可能な最大限のキャッシュフロー」を見ている、という違いがある。

FCFE DCFの計算構造:割引率は株主資本コストを使う

FCFEを使ってDCFを組み立てる場合、第07章で確認した「分子と分母の対応関係」の原則に従い、割引率にはWACCではなく、株主資本コストそのものを使わなければならない。FCFEは既に「株主だけの取り分」に絞り込まれたキャッシュフローであるため、そこにさらに債権者のコストを混ぜ込んだWACCを使ってしまうと、二重に調整をしてしまうことになり、理論的な整合性が崩れてしまう。

この点は、初心者(そして残念ながら一部の実務家)が非常に混同しやすいポイントであり、第06章、第07章で繰り返し強調してきた「分子と分母の対応関係」の重要性が、ここで改めて、実践的な場面で試されることになる。

FCFE DCFの計算結果として得られるのは、直接的に「株主価値」である。したがって、第13章のFCFF DCFのように、後から「EVから純有利子負債を引く」というステップを経る必要がない。1年目から10年目までのFCFEと、ターミナルバリューを、株主資本コストで現在価値に割り引いて合計すれば、それがそのまま株主価値の合計額となり、あとは発行済株式数(希薄化後)で割るだけで、1株あたりの理論株価が得られる。

FCFF DCFとFCFE DCFの使い分け

では、実務上、この二つの手法——FCFF DCFとFCFE DCF——は、どう使い分ければいいのか。

FCFF DCFの利点は、企業の資本構成(借金と株式の調達比率)の変化に対して、比較的頑健であることだ。将来、企業が借入を増やしたり減らしたりする計画がある場合(例えば大規模なM&Aに伴う一時的な借入増加など)、FCFEの計算はその都度、借入や返済のキャッシュフローを細かく織り込む必要があり、予測が複雑になりがちだ。一方FCFFは、まず「パイ全体」を計算し、最後にその時点での純有利子負債を差し引くだけなので、資本構成の変化を、より簡潔に処理できる。

一方FCFEの利点は、「株主にとって本当に重要な、直接的な取り分」を、最初から直接的に見ることができる、という直感的な分かりやすさにある。特に、資本構成があまり大きく変動しない、安定した成熟企業を評価する場合には、FCFEアプローチの方が、計算がシンプルになることも多い。

実務のプロフェッショナルの間では、多くの場合、資本構成が今後大きく変化する可能性がある企業(高成長企業や、M&Aを積極的に行う企業など)にはFCFF DCFを、資本構成が安定している成熟企業にはFCFEアプローチを、という使い分けがなされることが多い。しかし、どちらの手法を用いても、前提となる正常化・ドライバー予測(第08章)が正しく、かつ割引率の対応関係(分子と分母)が正しく守られている限り、理論上は両者は同じ株主価値にたどり着くはずである、という点も、極めて重要な事実として押さえておいてほしい。二つの手法で結果が大きくズレる場合、それはどこかの前提、あるいは計算過程に、見落としやミスが潜んでいる兆候だと考えるべきである。

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全47章 + 最終章・用語リスト

01
I · 価値評価の土台

理論価値は未来予知ではない

02
I · 価値評価の土台

CAGR、複利、現在価値

03
I · 価値評価の土台

貸借対照表と純有利子負債

04
I · 価値評価の土台

利益、営業CF、FCFを分ける

05
I · 価値評価の土台

1株価値と希薄化

06
I · 価値評価の土台

EVと株主価値を混ぜない

07
I · 価値評価の土台

株主資本コストとWACC

08
I · 価値評価の土台

正常化とドライバー予測

09
I · 価値評価の土台

観測事実・推定・仮定を分ける

10
II · 基本モデル

PERの理論と正しい使い方

11
II · 基本モデル

上場黒字企業の簡易評価

12
II · 基本モデル

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13
II · 基本モデル

10年FCFF DCFを組み立てる

14
II · 基本モデル

FCFE DCF

15
II · 基本モデル

ターミナル価値とROIC

16
II · 基本モデル

残余利益とP/B

17
III · 企業と業種

上場赤字企業の黒字化モデル

18
III · 企業と業種

非上場企業の株主価値

19
III · 企業と業種

SOTPと持株会社NAV

20
III · 企業と業種

会社に式を合わせる

21
III · 企業と業種

銀行をP/TBVと残余利益で評価する

22
III · 企業と業種

保険会社の価値評価

23
III · 企業と業種

REIT・不動産NAV

24
III · 企業と業種

不動産賃貸会社の価値評価

25
III · 資源・バイオ・公益など

資源NAV

26
III · 資源・バイオ・公益など

バイオrNPV

27
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電力・ガス会社の価値評価

28
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29
III · 資源・バイオ・公益など

総合商社のSOTP評価

30
III · 資源・バイオ・公益など

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31
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コングロマリットの部門別評価

32
III · 資源・バイオ・公益など

証券会社の価値評価

33
III · 運用・航空・海運など

資産運用会社の価値評価

34
III · 運用・航空・海運など

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35
III · 運用・航空・海運など

海運会社の価値評価

36
III · 運用・航空・海運など

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III · 運用・航空・海運など

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38
III · 運用・航空・海運など

通信会社の価値評価

39
III · インフラ・建設・SaaSなど

インフラ運営会社の価値評価

40
III · インフラ・建設・SaaSなど

建設・エンジニアリング会社の価値評価

41
III · インフラ・建設・SaaSなど

不動産開発会社の案件別NAV

42
III · インフラ・建設・SaaSなど

SaaS・サブスクリプションの価値評価

43
III · インフラ・建設・SaaSなど

22業種モデル横断演習

44
IV · 実践と検証

指数・ETF・アクティブ運用

45
IV · 実践と検証

逆算と配当込みTSR

46
IV · 実践と検証

感度分析とモンテカルロ

47
IV · 実践と検証

モデル監査と投資メモ

終
最終章

最終章

語
用語リスト

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