第23章 REIT・不動産NAV
読了の目安 約3分続いて扱うのは、不動産投資信託(REIT)と、不動産そのものの価値評価に用いられる、NAV(純資産価値)アプローチである。不動産関連の評価は、これまで学んできたDCF系の手法とはまた異なる、「資産そのものの時価」に着目した、独自のロジックを持っている。
REITとは何か、なぜ専用の評価手法が必要なのか
REIT(Real Estate Investment Trust、不動産投資信託)は、多数の投資家から集めた資金でオフィスビルや商業施設、住宅、物流施設といった不動産を保有・運用し、その賃貸収入や売却益から得られる利益の大部分を、投資家に分配する、という仕組みの金融商品だ。多くの国のREIT制度では、利益の大部分(例えば90%以上)を分配することを条件に、法人税が実質的に軽減される、という税制上の優遇措置が設けられていることが多い。
REITの評価に、一般の事業会社向けのDCF(第13章)をそのまま適用することも不可能ではないが、実務上、REITや不動産会社の評価においては、「NAV(Net Asset Value、純資産価値)」というアプローチが、極めて広く、そして極めて重視される形で用いられている。
NAVアプローチの根本思想:「今、その不動産を全部売ったらいくらになるか」
NAVアプローチの根本思想は、実にシンプルだ。「その会社(REITや不動産会社)が保有している不動産一つひとつを、それぞれ現在の市場価値(時価)で評価し、それらをすべて足し合わせ、そこから有利子負債(第03章)などの負債を差し引くことで、株主に帰属する、実質的な純資産の価値を算出する」という手法である。
この「不動産一つひとつを時価評価する」という部分が、NAVアプローチの技術的な核心だ。実務上、個々の不動産の時価評価には、「その不動産が生み出す年間賃料収入を、その物件の性質やエリア特性に応じた還元利回り(キャップレート、Capitalization Rateと呼ばれる)で割り戻す」という、いわば不動産版のゴードン成長モデル(第12章)に類似した、シンプルな計算手法が広く用いられる。
不動産の時価評価額 ≒ 年間の想定純賃料収入(NOI) ÷ 還元利回り(キャップレート)
この式の構造は、第10章のPERや第12章のゴードン成長モデルと、驚くほど似通っている点に、ぜひ気づいてほしい。分子に「その資産が生み出す1年分のキャッシュフロー」を置き、分母に「その資産の性質に見合った、要求リターン水準」を置く、という構造は、実は理論株価評価全体を貫く、普遍的なパターンなのだ。この教科書を通じて何度も繰り返し登場する、この「パターンの再来」に、気づけるようになった君は、もう単なる暗記ではなく、本質を掴みつつある証拠である。
キャップレートを左右する要因
このキャップレート(還元利回り)という数字は、その不動産が立地するエリアの将来性、物件の築年数や設備の質、テナントの信用力や賃貸借契約の残存期間、そして何より、その国・地域全体の長期金利水準(金利が低ければ低いほど、不動産のような相対的に安定したキャッシュフローを生む資産の魅力が相対的に高まり、キャップレートは低下する傾向がある)といった、複数の要因によって決定される。
第07章で学んだ株主資本コストのCAPMの考え方と同様に、このキャップレートもまた、「安全資産の利回り(リスクフリーレート)に、不動産という資産クラス特有のリスクプレミアムを上乗せしたもの」として理解することができる。
NAV倍率という、REIT特有の評価指標
REITの市場での取引価格を、このNAVで割った「NAV倍率(Price to NAV)」は、REIT業界において、第16章のP/Bに相当する、極めて広く使われる評価指標である。NAV倍率が1倍を上回っている状態は、市場がそのREITの経営陣による資産運用能力(優良な物件を発掘し、賃料収入を高め、あるいは開発利益を生み出す能力)に、資産の単純な時価総和以上のプレミアムを認めている、ということを意味する。逆にNAV倍率が1倍を下回っている状態は、市場がその経営陣の運用能力に懐疑的であるか、あるいは保有資産の時価評価そのものに疑念を持っている(実際の時価は、算出されたNAVよりも低いのではないか、という見立て)、という可能性を示唆している。