第30章 持株会社のNAV評価
読了の目安 約2分第19章で、持株会社NAVの基本的な考え方には、既に触れた。この章では、その内容をさらに掘り下げ、持株会社を評価する際の、より実践的で、より詳細な論点に踏み込んでいく。
持株会社の類型:純粋持株会社と、事業持株会社
持株会社には、大きく分けて二つの類型がある。一つは「純粋持株会社」で、自らは一切の直接的な事業を営まず、専ら子会社・関連会社株式の保有・管理と、グループ全体の経営戦略の策定に特化した会社だ。もう一つは「事業持株会社」で、自ら中核となる事業を営みつつ、同時に、他の企業の株式も保有している(例えば、事業会社が、関連の深い企業に出資し、その株式を保有し続けているようなケース)、という、ハイブリッドな形態だ。
純粋持株会社であれば、第19章で学んだNAVアプローチ(保有先の時価総額の合算から、純有利子負債を差し引く)を、比較的素直に適用できる。一方、事業持株会社の場合は、「自ら営む中核事業の価値」を、第13章のDCFなど、別の手法で個別に評価し、それに「保有株式のNAV」を加算するという、SOTP(第19章、第29章)とNAVを組み合わせた、複合的なアプローチが必要になる。
保有先が非上場の場合の評価上の難しさ
持株会社NAVの評価において、保有先が上場企業であれば、市場の時価総額をそのまま使えるため、比較的シンプルだ。しかし、保有先が非上場企業である場合には、第18章で学んだ非上場企業評価の手法(DCFに基づく評価、非流動性ディスカウントの検討)を、個別に適用する必要があり、この部分の評価の確からしさが、持株会社全体のNAV評価の精度を、大きく左右することになる。
持株会社ディスカウントの「解消可能性」を評価する視点
第19章で、持株会社ディスカウントという現象(実際の株価が、計算されたNAVを下回って取引される傾向)について触れた。この章では、もう一歩踏み込んで、「このディスカウントは、将来、解消される可能性があるのか」という、より実践的な問いに向き合いたい。
この問いへの答えは、その持株会社の経営陣が、株主還元(配当や自社株買い)に対して、どれだけ積極的な姿勢を持っているか、また、保有する非中核資産(事業とのシナジーが乏しい、純粋な政策保有株式など)を、将来的に売却し、その資金を株主に還元したり、より収益性の高い事業に再投資したりする意思をどれだけ明確に示しているか、といった、経営陣の資本配分方針に大きく依存する。
こうした「経営陣の資本配分に対する規律」を、有価証券報告書や決算説明資料、経営陣の発言などから読み解くことは、財務データの分析だけでは捉えきれない、しかし持株会社の評価において決定的に重要な、定性的な分析作業である。この分析を丁寧に行うことで、「単にNAVを下回っているから割安」という短絡的な判断ではなく、「このディスカウントは、経営陣の姿勢の変化によって、将来解消されうるものなのか」という、より深く、より説得力のある判断に到達することができる。