第39章 インフラ運営会社の価値評価
読了の目安 約2分第27章・第28章で扱った電力・ガス、規制公益会社の議論をさらに広げ、この章では、有料道路、空港、鉄道といった、社会インフラそのものの運営権を持つ「インフラ運営会社」の評価を扱う。この業種は、規制公益会社と多くの性質を共有しながらも、しばしば「コンセッション(運営権)」という、有限の契約期間を伴う、独自の構造を持っている。
インフラ運営会社の本質:「長期にわたる、極めて安定したキャッシュフロー」を生む資産
インフラ運営会社が保有・運営する資産(有料道路、空港ターミナル、鉄道路線など)は、一度建設・整備されれば、その後、数十年という極めて長期にわたって、安定的な利用料収入(通行料、着陸料、旅客サービス料、運賃など)を生み出し続ける、という性質を持つ。この「長期にわたる予測可能性の高さ」は、第07章で学んだベータの観点から見ると、多くのインフラ資産のベータが低い水準にあることを意味し、株主資本コスト・WACCも、相対的に低く設定される傾向がある。
コンセッション(運営権)契約という、有限期間の構造
インフラ運営会社の評価において、決定的に重要な論点となるのが、「コンセッション契約」の存在である。多くのインフラ資産(特に、政府や自治体が保有する道路や空港など)は、民間企業が直接所有するのではなく、政府から「一定期間(例えば30年、50年といった、契約で定められた年数)にわたって、その資産を運営し、利用料を収受する権利」を取得する、という形態で運営されていることが多い。
この「有限の契約期間」という性質は、第25章で扱った資源会社の「有限の埋蔵量」という性質と、驚くほど類似した構造を持っている。したがって、コンセッション型のインフラ運営会社を評価する際には、第12章で学んだ「永続的なゴードン成長モデル」をそのまま適用することは、原理的に不適切である。代わりに、第25章の資源NAVと同様、「コンセッション契約が満了するまでの、有限期間にわたるFCFを積み上げて現在価値化する」という、有限期間DCFのアプローチが、標準的な評価手法となる。
そして、コンセッション契約が満了した時点で、その資産の運営権が政府に返還される場合、その時点以降のキャッシュフローはゼロになる、という前提を、明示的にモデルに織り込む必要がある(契約によっては、更新のオプションが存在する場合もあり、その場合は、更新の蓋然性についての検討も必要になる)。
需要リスクという、インフラ運営会社に固有の変動要因
インフラ運営会社の収益は、多くの場合、料金水準自体は規制や契約によって、ある程度、安定的に定められている一方、「利用量(交通量、旅客数など)」という需要側の変動には、さらされている。この需要は、その地域の経済成長、人口動態、代替的な交通手段の発達状況など、様々な要因によって変動する。インフラ運営会社のドライバー予測(第08章)においては、この「需要の将来推移」を、地域の経済見通しや、人口統計データなどを参考にしながら、慎重に見積もる必要がある。