用語リスト
読了の目安 約11分理論株価モデルの教科書 ─ 用語リスト
全47章に登場した専門用語・難解語 解説集
この用語リストは、本編の47章の中で登場した、専門的で分かりにくい言葉たちを、章の順序に沿って整理し、辞書として使えるようにまとめたものだ。本編を読んでいて「あれ、これ何だっけ」となったら、いつでもここに戻ってきてほしい。
PART I 関連用語(第01〜09章)
CAGR(年平均成長率)
過去の凸凹した成長を「毎年一定の率で成長したとしたら」という架空の、しかし数学的には等価な、なめらかな成長率に置き換えたもの。始点と終点、期間だけで計算され、途中の道のりは一切見ない。
複利
利息が利息を生む現象。元本だけでなく、増えた分にも次の期間の利率がかかるため、時間が経てば経つほど、雪だるま式に増加ペースが加速していく。
現在価値(プレゼントバリュー、PV)
未来のお金を、今の価値に「翻訳」した金額。割引率という「タイムマシンの為替レート」を使って、未来の金額を割り算することで求める。
割引率
未来のお金を現在価値に変換する際に使う利率。割引率が高いほど、未来のお金の「今の価値」は小さくなる。
貸借対照表(バランスシート、B/S)
ある一瞬(決算日など)における、企業の財産の状態を写し取った一枚のスナップショット。左側に資産、右側に負債と純資産(自己資本)が並び、左右の合計は必ず一致する。
有利子負債
銀行借入や社債など、利息を払う義務のある負債。買掛金のような無利子の商取引上の負債とは区別される。
純有利子負債
有利子負債の総額から、企業が保有する現金及び現金同等物を差し引いた、実質的な借金の金額。
当期純利益
会計上のルールや見積もりを経て計算される、企業の最終的な儲け。会計処理の選び方次第で変動しうるため「意見」に近い性質を持つ。
営業キャッシュフロー(営業CF)
本業を通じて、実際にどれだけの現金を稼ぎ出したかを示す数字。当期純利益に減価償却費を足し戻すなどして算出する。
減価償却費
設備などの購入代金を、耐用年数にわたって少しずつ費用として計上していく会計処理。実際には現金の支出を伴わない費用。
設備投資(CapEx)
事業の維持・拡大のために、工場や機械などの設備に投じる投資。
フリーキャッシュフロー(FCF)
営業CFから設備投資を差し引いた、株主・債権者に自由に分配可能な、正真正銘の余剰現金。理論株価評価における「主食」。
発行済株式数
現在、市場に発行されている株式の総数。企業全体の価値を、この数で割ることで1株あたりの価値が求まる。
希薄化(ダイリューション)
新株予約権の行使や新株発行などによって、発行済株式数が後から増加し、既存株主1人あたりの取り分が目減りする現象。
完全希薄化後株式数
現時点で行使可能な新株予約権や転換社債などが、すべて今すぐ株式に転換されたと仮定した場合の、最大限に膨らんだ発行済株式数。保守的な評価のために用いる。
自社株買い
企業が自らのキャッシュで、市場に流通する自社株を買い戻し、消却すること。発行済株式数が減り、1株あたりの価値は上昇しやすい。
企業価値(EV、Enterprise Value)
株主と債権者、両方の取り分を含む、企業が生み出す価値の全体(パイ全体)。
株主価値(Equity Value)
EVから純有利子負債を差し引いた、株主に帰属する残余の価値。時価総額に相当する。
資本コスト
企業が資金を調達する際にかかる、目に見えないコスト。負債コストは利息、株主資本コストは株主が期待するリターン水準を指す。
株主資本コスト(コスト・オブ・エクイティ)
株主が、その会社の株式に投資する見返りとして期待するリターン率。CAPMという手法で推定されることが多い。
CAPM(資本資産価格モデル)
株主資本コストを「リスクフリーレート+ベータ×リスクプレミアム」という式で推定する、実務で広く使われる考え方。
リスクフリーレート
リスクをほぼ取らずに得られる最低限のリターン率。実務上は長期国債の利回りが使われることが多い。
リスクプレミアム
株式市場全体に投資することのリスクに対して、投資家が要求する上乗せ分のリターン。
ベータ(β)
株式市場全体が1%動いたとき、その個別企業の株価が平均的に何%動くかを示す係数。1.0が市場並み、それより高いか低いかでリスクの大小を示す。
WACC(加重平均資本コスト)
株主資本コストと負債コスト(税引後)を、それぞれの資金調達比率で加重平均した割引率。EV全体を割り引く際に用いる。
正常化(ノーマライゼーション)
決算数値に含まれる、一時的・特殊な要因(特別損益など)を取り除き、本来の実力としての収益力を抽出する作業。
ドライバー
売上高や利益率を動かしている、より根本的な構成要素(客数×客単価、店舗数など)。売上高を直接予測するのではなく、ドライバーに分解して予測する方が説明力が高い。
明示的予測期間
DCFにおいて、ドライバー予測によって年ごとに具体的にFCFを見積もる期間(例:今後10年間)。
観測事実・推定・仮定
評価に使う情報を、①既に確定している動かしようのない事実、②理論やデータに基づいて算出される中間的な情報、③評価者自身が置く将来についての前提、の三種類に分けて扱うべきという原則。
PART II 関連用語(第10〜16章)
PER(株価収益率)
株価を1株あたり利益(EPS)で割った指標。理論上は、成長率と株主資本コストの関係を圧縮して表現したものになっている。
インプライド・グロース(市場織り込み成長率)
現在の市場株価(PER)から逆算される、「市場がその会社に期待している将来の成長率」。
バリュートラップ(割安の罠)
PERなどが低いことを理由に「割安」と判断して投資したが、実はその低さに正当な理由があり、株価がさらに下落してしまう現象。
DDM(配当割引モデル)
株主が実際に受け取る配当を、将来にわたってすべて現在価値に割り引いて合計することで、株主価値を計算する手法。
ゴードン成長モデル
配当(あるいはFCF)が、今後永遠に一定の率で成長し続けると仮定することで、無限の将来の価値を「来年の配当÷(株主資本コスト−永続成長率)」という一行の式に圧縮するモデル。
永続成長率(g)
ゴードン成長モデルやターミナルバリューの計算で用いる、「未来永劫、毎年その率で成長し続ける」という前提の成長率。国・世界経済全体の長期成長率を大きく超えるべきではない。
FCFF(Free Cash Flow to the Firm)
企業全体(株主にも債権者にも分配される前のパイ全体)に帰属するフリーキャッシュフロー。割引にはWACCを使う。
NOPAT(税引後営業利益)
営業利益に実効税率を適用した税金を差し引いた後の利益。支払利息の影響を含まない、事業活動そのものの税引後の利益力を示す。
FCFE(Free Cash Flow to Equity)
FCFFから、支払利息(税引後)や借入・返済の増減を調整した、株主だけに帰属するフリーキャッシュフロー。割引には株主資本コストを使う。
ROIC(投下資本利益率)
税引後営業利益(NOPAT)を投下資本(有利子負債+株主資本)で割った、投資効率を示す指標。WACCと比較することで、その成長が本当に価値を生んでいるかを判断できる。
残余利益(Residual Income)
当期純利益から、株主資本コストに見合う最低限の期待リターン分を差し引いた、資本コストを上回る「真の付加価値」部分。
P/B(株価純資産倍率、PBR)
株価を1株あたり自己資本(簿価)で割った指標。理論上はROEと株主資本コストの関係を反映する。
ROE(自己資本利益率)
当期純利益を自己資本で割った、株主の視点からの収益効率を示す指標。
PART III 関連用語(第17〜24章、資源・バイオ・電力等 第25〜32章、第39〜43章含む)
黒字化モデル
赤字企業について、固定費が売上高の拡大とともに相対的に薄まっていく過程(オペレーティング・レバレッジ)を明示的にモデル化し、黒字転換のタイミングと水準を予測する手法。
オペレーティング・レバレッジ
売上高が拡大するにつれて、固定費の負担が相対的に薄まり、利益率が急速に改善していく効果。
キャッシュバーン
赤字が続く企業が、営業活動によって手元資金を消費し続けている状態。
非流動性ディスカウント
非上場株式のように、すぐに売却できない(換金しにくい)資産の価値を、その分だけ低く評価する調整。
支配権プレミアム
会社の経営権を握れるだけの支配的な持分を取得する場合に、少数株主としての保有よりも高く評価される、価値の上乗せ分。
SOTP(Sum of the Parts、事業別価値の合算)
複数の事業セグメントを持つ会社を、セグメントごとに個別評価し、最後に合算する評価手法。
コングロマリット・ディスカウント
SOTPで算出した理論上の合算価値が、実際の市場での時価総額を下回る、多角化企業にしばしば観察される現象。
持株会社NAV
持株会社が保有する各子会社・関連会社の時価総額を保有比率に応じて合算し、持株会社自体の純有利子負債を差し引いて求める純資産価値。
持株会社ディスカウント
持株会社の実際の株価が、計算されたNAVを下回る水準で取引される、実務上広く観察される現象。
P/TBV(株価純有形自己資本倍率)
銀行評価などで使われる、のれんなどの無形資産を除いた「有形」の自己資本に対する株価の倍率。
ROTE(有形自己資本利益率)
当期純利益を有形自己資本で割った、銀行評価などで用いられる収益効率指標。
エンベディッド・バリュー(保険会社のEV)
保険会社の修正純資産に、既存契約が将来生み出す利益の現在価値(保有契約価値)を加えたもの。企業価値(Enterprise Value)のEVとは別の概念。
アプレイザル・バリュー
エンベディッド・バリューに、将来の新契約が生み出す価値を加えた、より発展的な保険会社評価の概念。
NAV(純資産価値、Net Asset Value)
保有する資産を時価評価し、負債を差し引いて求める、実質的な純資産の価値。REITや不動産、持株会社などで用いられる。
キャップレート(還元利回り)
不動産の年間純賃料収入を、その物件の性質に応じた要求利回りで割り戻して時価評価する際に使う利率。
NOI(純営業収益)
不動産が生み出す、経費差し引き後の年間の純賃料収入。
NAV倍率
REITなどの市場での取引価格を、算出したNAVで割った倍率。
資源NAV
資源会社が保有する鉱区・油田ごとの生産計画に基づき、埋蔵量が枯渇するまでの有限期間のFCFを積み上げて現在価値化する評価手法。
確認・推定・予想埋蔵量
資源業界における、埋蔵量の確からしさの度合いによる分類。
rNPV(risk-adjusted Net Present Value、リスク調整後正味現在価値)
創薬企業の新薬候補について、承認後に得られるキャッシュフローの現在価値に、承認までの成功確率を掛け合わせて評価する手法。
パイプライン
創薬企業が開発中に持つ、複数の新薬候補群。
特許の崖(パテント・クリフ)
医薬品の特許保護期間が終了し、安価な後発品(ジェネリック)の参入によって収益が急激に落ち込む現象。
RAB(レギュラトリー・アセット・ベース、規制資産ベース)
規制公益会社(電力・ガスなど)において、規制当局に認められた設備投資の累積額。この額に許容報酬率を掛けて、認められる利益水準が決まる。
許容報酬率
規制当局が、規制資産ベースに対して事業者が得ることを認める、適正な利益率。
持分法投資
議決権比率がおおむね20〜50%程度で、経営を完全支配するほどではないが重要な影響力を持つ投資先について、保有比率に応じた利益だけを自社の利益に反映させる会計処理。
コンセッション(運営権)
政府が保有するインフラ資産について、民間企業が一定期間、運営し利用料を収受する権利を得る契約形態。
バックログ(受注残高)
建設・エンジニアリング会社などが、既に受注しているが、まだ完成・引き渡しが済んでいない工事・プロジェクトの総額。
工事進行基準
工事の進捗に応じて、収益を段階的に計上していく会計処理。
案件別NAV
不動産開発会社の、個々の開発案件ごとに将来の販売価格見積もりから開発コストを差し引き、現在価値化して合算する評価手法。
LTV(Life Time Value、顧客生涯価値)
一人の顧客が契約継続期間全体を通じてもたらす利益の現在価値の合計。SaaS業界で重視される。
CAC(Customer Acquisition Cost、顧客獲得コスト)
一人の新規顧客を獲得するために要した営業・マーケティングコストの平均額。
チャーンレート(解約率)
一定期間内に契約を解約する顧客の割合。通信業界やSaaS業界で重視される。
ネット・リベニュー・リテンション・レート
既存顧客からの収益が、追加購入やアップグレードによって、年々どれだけ拡大しているかを示す指標。100%を超えていれば、新規顧客獲得なしでも収益が拡大していることを意味する。
業種別評価(第33〜38章)関連用語
AUM(Assets Under Management、預かり資産残高)
資産運用会社が顧客から預かり、運用している資産の総額。
ASK(Available Seat Kilometers、有効座席キロ)
航空会社が提供する座席供給能力の総量を示す指標。
イールド(航空業界)
旅客1人を1キロメートル運ぶあたりの平均運賃単価。
高炉法・電炉法
鉄鋼の製法の違い。高炉法は鉄鉱石と石炭から一貫製鋼する伝統的製法、電炉法は鉄スクラップを電気炉で溶解・再生する製法。
ARPU(Average Revenue Per User)
契約者一人当たりの平均月間収入。通信業界などで用いられる。
PART IV 関連用語(第44〜47章)
ETF(Exchange Traded Fund、上場投資信託)
特定の指数などに連動する運用成果を目指す、証券取引所で売買できる金融商品。
パッシブ運用
指数などに機械的に連動させる、能動的な銘柄選択を行わない運用スタイル。
アクティブ運用
運用担当者が独自の分析に基づき、市場の評価と自分の見立てのギャップがある銘柄に積極的に投資する運用スタイル。
TSR(Total Shareholder Return、株主総利回り)
株価の値上がり益(キャピタルゲイン)に、保有期間中に受け取った配当金(インカムゲイン)を加えた、株主にとっての総合的なリターン。
感度分析(センシティビティ分析)
DCFモデルなどの主要な前提を、一つずつ変化させて、理論株価がどう変化するかを体系的に確認する作業。
モンテカルロ・シミュレーション
複数の前提それぞれに確率分布を設定し、無数回のランダムな組み合わせで理論株価を計算し直すことで、理論株価の確率的な分布を得る手法。
モデル監査
完成した理論株価評価モデルを、完成後に批判的に見直し、誤りや不合理な前提が紛れ込んでいないかを体系的にチェックする作業。
投資メモ
分析の結論、その根拠となる前提、前提の性質(観測事実・推定・仮定)、主要なリスク要因を、簡潔にまとめた最終的な文書。