第37章 半導体メモリ会社の価値評価
読了の目安 約2分続いて扱うのは、テクノロジー産業の中でも、特に激しい価格変動と、巨大な設備投資サイクルで知られる、半導体メモリ業界の評価だ。
半導体メモリ業界の特殊性:「価格の乱高下」が常態化した市場
半導体メモリ(DRAMやNAND型フラッシュメモリなど)は、その製品自体は、どのメーカーが製造しても、基本的な性能・仕様に大きな差がない、いわゆる「コモディティ製品」としての性質を強く持っている。このため、メモリ価格は、需要と供給のバランスによって、極めて大きく、そして頻繁に変動する。これは、第25章で扱った資源価格の変動性を、さらに極端にしたような性質だと理解することができる。
この価格変動の激しさの背景には、半導体製造プロセスに固有の「投資サイクル」がある。メモリ価格が高騰する局面(需要が供給を上回る局面)では、各メーカーが競って生産能力の増強(巨額の設備投資)に動く。しかし、この設備投資が実際に生産能力として立ち上がるまでには、数年単位の時間がかかるため、複数のメーカーが同時期に増産を進めた結果、供給が需要を大きく上回ってしまい、価格が急落する、という「投資と価格の、周期的な乱高下」が、業界の歴史を通じて、繰り返し観察されてきた。
半導体メモリ会社の評価における、極めて大きな不確実性への対処
このような、極端な価格変動サイクルを持つ業界を評価する際、単一の価格シナリオに基づくDCF(第13章)は、著しく不安定な結果を生みやすい。この教科書がこれまで繰り返し強調してきた「複数シナリオの並行構築」というアプローチが、半導体メモリ会社の評価においては、特に不可欠なものとなる。「メモリ価格が現在のサイクルの底値圏で推移するシナリオ」「サイクルが回復し、価格が上昇するシナリオ」「新たな供給過剰によって、価格が再び下落するシナリオ」といった、複数の価格シナリオを構築し、それぞれについて理論株価を算出した上で、そのレンジ全体を、投資判断の材料として扱うことが、極めて実践的なアプローチとなる。
技術革新への設備投資という、もう一つの重要な論点
半導体メモリ業界を評価する上で、もう一つ見過ごせない論点が、「技術革新のスピードと、それに対応するための、継続的な巨額投資の必要性」だ。半導体の微細化・高集積化技術は、絶え間なく進歩し続けており、この技術進歩に追随できないメーカーは、コスト競争力を失い、市場から淘汰されるリスクに直面する。したがって、半導体メモリ会社のFCF予測(第04章、第08章)においては、単なる「生産能力を維持するための設備投資」だけでなく、「技術世代を維持・向上させるための、継続的な研究開発投資・設備投資」を、適切に織り込む必要がある。この観点は、第15章で学んだROICの評価においても、「その設備投資が、将来にわたって競争力を維持するために、本当に必要な投資であるかどうか」という、質的な判断を伴う、重要な検証項目となる。