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初心者向け・理論株価の教科書

たとえ話と具体例で、現在の理論株価・10年後の価値・業種別モデルの考え方を学ぶ。

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10Y STOCK VALUE / TEXTBOOK33
III · 運用・航空・海運など

第33章 資産運用会社の価値評価

読了の目安 約3分

第32章では証券会社の評価を扱ったが、証券会社の収益源の一つとして触れた「資産運用受託業務」を、本業として専業で営む企業——資産運用会社(アセットマネジメント会社)——には、また独自の評価上の視点が求められる。この章では、この「他人のお金を運用して、その対価として手数料を受け取る」というビジネスモデルに特化した、評価の技術を掘り下げていく。

資産運用会社のビジネスモデル:「預かり資産残高」という、最重要のドライバー

資産運用会社の収益構造は、証券会社と比べて、実はかなりシンプルである。その収益の大部分は、「AUM(Assets Under Management、預かり資産残高)」に、一定の「報酬料率」を掛け合わせた金額として得られる。

収益 ≒ AUM(預かり資産残高) × 報酬料率

この式の単純さこそが、資産運用会社の評価における、第08章で学んだドライバー予測を、極めて明快なものにしている。将来の収益を予測するためには、基本的に「AUMが今後どう推移していくか」と「報酬料率がどう変化していくか」という、二つの変数を、丁寧に予測すればよい、ということになる。

AUMを動かす二つの要因:資金の純流出入と、市場の値動き

AUMの将来推移を予測する際には、AUMを変動させる、性質の全く異なる二つの要因を、明確に区別して考える必要がある。一つは「資金の純流出入(ネットフロー)」——顧客が新たに資金を預け入れる金額から、顧客が資金を引き出す金額を差し引いた、正味の資金の出入りである。もう一つは「市場の値動き(マーケットパフォーマンス)」——既に預かっている資産の時価が、株式市場や債券市場全体の値動きによって、増減する効果である。

この二つの要因のうち、資金の純流出入は、その運用会社の運用成績の評判や、営業力、商品ラインナップの competitiveness(競争力)といった、ある程度、企業努力によってコントロール可能な要素に左右される。一方、市場の値動きによるAUMの増減は、資源会社における資源価格や、証券会社におけるトレーディング収益と同様に、企業の経営努力の及ばない、外部環境要因である。資産運用会社の正常化(第08章)を行う際には、この二つの要因を、決算資料の開示情報などから、可能な限り分離して把握することが、極めて重要になる。

報酬料率の低下傾向という、業界全体の構造トレンド

資産運用業界全体を見渡す上で、避けて通れない、極めて重要な構造トレンドがある。それは、近年、世界的に、運用報酬料率が、長期的に低下し続けているという傾向だ。この背景には、コストの低いインデックスファンド(株価指数などに連動する運用成果を目指す、パッシブ運用型の商品)の台頭により、伝統的な、積極的な銘柄選択を行う「アクティブ運用」の商品に対して、顧客がより低い報酬料率を求める圧力が、強まり続けていることがある。

このトレンドは、資産運用会社の将来のFCF予測(第08章、第13章参照)において、単に「AUMが成長すれば、収益も比例して成長する」という単純な前提に依存することの危うさを、強く示唆している。将来の報酬料率が、過去の水準からどの程度低下していく可能性があるかを、業界全体の競争環境の変化を踏まえて、慎重に見立てる必要がある。

資産運用会社評価における、規模の経済という論点

一方、資産運用会社のビジネスモデルには、極めて強い「規模の経済(オペレーティング・レバレッジ)」が働くという、収益性の観点から重要な特徴もある。運用チームの人員体制やシステムインフラといったコストの多くは、AUMの規模にかかわらず、ある程度固定的にかかる費用であるため、AUMが拡大すればするほど、これらの固定費が薄まり、利益率が急速に改善していく傾向がある。この「規模の経済によるオペレーティング・レバレッジ」は、第17章で赤字企業の黒字化モデルにおいて扱った考え方と、本質的に同じ構造を持っている。資産運用会社を評価する際には、このオペレーティング・レバレッジの効き方を、ドライバー予測に明示的に織り込むことで、AUMの成長が、収益だけでなく利益率にも、どう波及していくかを、より精緻に捉えることができる。

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全47章 + 最終章・用語リスト

01
I · 価値評価の土台

理論価値は未来予知ではない

02
I · 価値評価の土台

CAGR、複利、現在価値

03
I · 価値評価の土台

貸借対照表と純有利子負債

04
I · 価値評価の土台

利益、営業CF、FCFを分ける

05
I · 価値評価の土台

1株価値と希薄化

06
I · 価値評価の土台

EVと株主価値を混ぜない

07
I · 価値評価の土台

株主資本コストとWACC

08
I · 価値評価の土台

正常化とドライバー予測

09
I · 価値評価の土台

観測事実・推定・仮定を分ける

10
II · 基本モデル

PERの理論と正しい使い方

11
II · 基本モデル

上場黒字企業の簡易評価

12
II · 基本モデル

Gordon成長モデルとDDM

13
II · 基本モデル

10年FCFF DCFを組み立てる

14
II · 基本モデル

FCFE DCF

15
II · 基本モデル

ターミナル価値とROIC

16
II · 基本モデル

残余利益とP/B

17
III · 企業と業種

上場赤字企業の黒字化モデル

18
III · 企業と業種

非上場企業の株主価値

19
III · 企業と業種

SOTPと持株会社NAV

20
III · 企業と業種

会社に式を合わせる

21
III · 企業と業種

銀行をP/TBVと残余利益で評価する

22
III · 企業と業種

保険会社の価値評価

23
III · 企業と業種

REIT・不動産NAV

24
III · 企業と業種

不動産賃貸会社の価値評価

25
III · 資源・バイオ・公益など

資源NAV

26
III · 資源・バイオ・公益など

バイオrNPV

27
III · 資源・バイオ・公益など

電力・ガス会社の価値評価

28
III · 資源・バイオ・公益など

規制公益会社の価値評価

29
III · 資源・バイオ・公益など

総合商社のSOTP評価

30
III · 資源・バイオ・公益など

持株会社のNAV評価

31
III · 資源・バイオ・公益など

コングロマリットの部門別評価

32
III · 資源・バイオ・公益など

証券会社の価値評価

33
III · 運用・航空・海運など

資産運用会社の価値評価

34
III · 運用・航空・海運など

航空会社の価値評価

35
III · 運用・航空・海運など

海運会社の価値評価

36
III · 運用・航空・海運など

鉄鋼会社の価値評価

37
III · 運用・航空・海運など

半導体メモリ会社の価値評価

38
III · 運用・航空・海運など

通信会社の価値評価

39
III · インフラ・建設・SaaSなど

インフラ運営会社の価値評価

40
III · インフラ・建設・SaaSなど

建設・エンジニアリング会社の価値評価

41
III · インフラ・建設・SaaSなど

不動産開発会社の案件別NAV

42
III · インフラ・建設・SaaSなど

SaaS・サブスクリプションの価値評価

43
III · インフラ・建設・SaaSなど

22業種モデル横断演習

44
IV · 実践と検証

指数・ETF・アクティブ運用

45
IV · 実践と検証

逆算と配当込みTSR

46
IV · 実践と検証

感度分析とモンテカルロ

47
IV · 実践と検証

モデル監査と投資メモ

終
最終章

最終章

語
用語リスト

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