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初心者向け・理論株価の教科書

たとえ話と具体例で、現在の理論株価・10年後の価値・業種別モデルの考え方を学ぶ。

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10Y STOCK VALUE / TEXTBOOK19
III · 企業と業種

第19章 SOTPと持株会社NAV

読了の目安 約4分

この章では、単一の事業を営むシンプルな会社ではなく、複数の異なる事業を傘下に持つ「多角化企業」や、複数の子会社・関連会社の株式を保有する「持株会社」を評価するための、専用の手法——SOTP(Sum of the Parts、事業別価値の合算)と、持株会社NAV(Net Asset Value、純資産価値)——を扱う。

SOTPとは何か:一つの会社を、事業ごとに解体して評価する

SOTP(サム・オブ・ザ・パーツ)の発想は、非常に直感的だ。「複数の異なる事業セグメントを抱える会社を、単一の指標(例えば会社全体のPERやEV/EBITDA)で一括評価するのではなく、事業セグメントごとに、それぞれ最も適した評価手法を個別に適用し、最後にそれらを合算する」という手法である。

なぜこの手間をかける必要があるのか。理由は、異なる事業セグメントは、しばしば全く異なる成長率、収益性、リスク特性(そして株主資本コスト)を持っているからだ。例えば、ある会社が「安定した食品事業」と「急成長中のヘルスケア事業」という、性格の全く異なる二つの事業を営んでいたとする。この会社を、単一のPERで一括評価してしまうと、成長性の高いヘルスケア事業の価値が過小評価されるか、逆に安定した食品事業の価値が過大評価されるか、いずれかの歪みが生じやすい。

SOTPでは、まず、それぞれの事業セグメントについて、開示されているセグメント情報(多くの上場企業は、有価証券報告書において、事業セグメントごとの売上高や利益を開示している)を用いて、個別にFCFを推計し、それぞれの事業の性質に見合った、個別の株主資本コスト・WACC(例えば、成長性の高い事業にはより高い割引率を、安定した事業にはより低い割引率を適用する)を用いて、個別に評価額を算出する。そして最後に、これらの事業別評価額をすべて合算し、さらに全社共通の本社費用(どの事業セグメントにも直接紐づかない、全社的な管理費用)の価値への影響や、全社ベースの純有利子負債(第03章、第06章)を調整することで、最終的な株主価値にたどり着く。

コングロマリット・ディスカウントという、しばしば観察される現象

SOTPを用いて計算した「理論上の合算価値」が、実際の市場での時価総額を大きく上回るケースが、しばしば観察される。この現象は「コングロマリット・ディスカウント(複合企業体割引)」と呼ばれ、実務上、非常に重要な論点として広く議論されてきた。

なぜこのような割引が生じるのか。いくつかの説明が提唱されている。一つは、「経営資源の配分の非効率性」だ。複数の異なる事業を一つの経営陣が管理する場合、それぞれの事業に特化した専業企業と比べて、経営の意思決定や資源配分の効率が劣る可能性がある、という見方だ。もう一つは、「投資家にとっての分析のしにくさ」だ。多角化された企業は、投資家がそれぞれの事業の実態を正確に把握することが難しく、その分析の手間や不確実性が、株価にディスカウントとして反映される、という見方もある。

このコングロマリット・ディスカウントの存在は、SOTPによる理論価値と、実際の市場株価との間に、構造的なギャップが存在しうることを意味している。このギャップの存在自体を「市場の間違い」だと断定するのは早計であり、多角化企業を評価する際には、こうした構造的な要因も踏まえた、慎重な解釈が求められる。

持株会社NAVという、特殊なケース

SOTPの、さらに特殊な応用形として、「持株会社」の評価がある。持株会社とは、自らは直接の事業を営まず、複数の子会社・関連会社(その多くが、それぞれ独立して上場していることもある)の株式を保有することを主目的とする会社のことだ。

持株会社を評価する際の基本的なアプローチは、「NAV(純資産価値)方式」と呼ばれる。これは、持株会社が保有する各子会社・関連会社の株式の価値(上場している子会社であれば、その市場での時価総額に、保有比率を掛けた金額)を、すべて足し合わせ、そこから持株会社自体が抱える純有利子負債(第03章)を差し引いて、純資産価値を算出する手法だ。

持株会社NAV = Σ(各保有先の時価総額 × 保有比率) − 持株会社自体の純有利子負債

持株会社ディスカウントという、もう一つの頻出現象

コングロマリット・ディスカウントと類似した現象として、「持株会社ディスカウント」がある。多くの持株会社の実際の株価は、この計算されたNAVを大きく下回る水準で取引されている、という実務上、極めて広く観察される事実がある。

この持株会社ディスカウントが生じる理由についても、いくつかの説明が提唱されている。一つは、「二重課税の懸念」だ。持株会社が保有する子会社株式からの配当収入や、将来的な株式売却益に対して、事業会社レベルと持株会社レベルの、二段階での課税が生じうる可能性が、株主にとってのマイナス要因として織り込まれる、という見方だ。もう一つは、「経営陣の資本配分に対する不透明感」だ。持株会社の経営陣が、保有する子会社株式やその配当収入を、株主還元ではなく、非効率な新規投資に振り向けてしまうのではないか、という懸念が、ディスカウントの一因になっているという見方もある。

このように、SOTPや持株会社NAVという手法は、理論上の「積み上げ計算」自体は比較的シンプルであるにもかかわらず、実際の市場評価との間に、構造的なギャップがしばしば存在する、という点を、常に念頭に置いておく必要がある。この理論値と市場値のギャップこそが、次章で扱う「会社に式を合わせる」という、より実践的なテーマへの、重要な橋渡しとなる。

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全47章 + 最終章・用語リスト

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10
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14
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16
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17
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18
III · 企業と業種

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19
III · 企業と業種

SOTPと持株会社NAV

20
III · 企業と業種

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21
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III · インフラ・建設・SaaSなど

22業種モデル横断演習

44
IV · 実践と検証

指数・ETF・アクティブ運用

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IV · 実践と検証

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IV · 実践と検証

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47
IV · 実践と検証

モデル監査と投資メモ

終
最終章

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語
用語リスト

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