第40章 建設・エンジニアリング会社の価値評価
読了の目安 約2分前章まで扱ってきたインフラ「運営」会社とは対照的に、この章では、インフラや施設そのものを「建設する」側の企業、すなわち建設・エンジニアリング会社の評価を扱う。この業種は、インフラ運営会社とは全く異なる、プロジェクトベースの、より変動の大きい収益構造を持っている。
建設・エンジニアリング業界の収益構造:受注残高という、最重要の先行指標
建設・エンジニアリング会社の将来収益を予測する上で、最も重要な出発点となるのが、「受注残高(バックログ)」という指標だ。これは、その会社が既に受注しているものの、まだ完成・引き渡しが完了していない、工事・プロジェクトの総額を指す。受注残高は、その会社の将来数年間にわたる売上高の、いわば「あらかじめ確定した土台」を示す、極めて重要な先行指標として機能する。
建設・エンジニアリング会社のドライバー予測(第08章)においては、まず、現在の受注残高が、今後、どのようなペースで売上高として計上されていくか(工事の進捗に応じて、収益が認識されていく会計処理を「工事進行基準」と呼ぶ)を見積もり、その上で、将来の新規受注の見通し(今後、どの程度の新規プロジェクトを、どの程度の利益率で受注できるか)を、別途、積み上げていく、という二段階のアプローチが取られる。
プロジェクトごとの採算管理という、収益性の核心
建設・エンジニアリング会社の収益性を評価する上で、極めて重要な論点が、「個々のプロジェクトの採算管理」だ。建設プロジェクトは、しばしば、契約締結から完成まで、数年単位の長期間を要し、その間に、資材価格の高騰、想定外の地盤条件、労務費の上昇、あるいは設計変更といった、当初の見積もりから乖離するリスクに、常にさらされている。もし、こうした想定外のコスト増加が発生した場合、そのプロジェクトの採算は悪化し、時には、契約時に見込んでいた利益が、逆に損失に転じてしまうこともある(いわゆる「工事損失引当金」の計上)。
この「プロジェクトごとの採算悪化リスク」は、建設・エンジニアリング会社を評価する上で、第08章の「正常化」の作業において、特に注意深く検証すべき論点である。過去の決算において、こうした工事損失の計上が頻発しているかどうかは、その会社のプロジェクト管理能力の質を測る、重要な手がかりとなる。
建設業界の評価アプローチ:受注残高の質と、地域・分野の多角化
建設・エンジニアリング会社を評価する際には、受注残高の「量」だけでなく、その「質」——利益率の高い分野(例えば、より専門性の高い、競合の少ないニッチな工事分野)の比率がどの程度あるか、特定の地域や特定の顧客に、受注が過度に集中していないか——を、丁寧に確認することが重要になる。地域や分野が多角化されている会社は、特定の地域の景気後退や、特定の分野における需要の落ち込みの影響を、相対的に受けにくい、という性質を持つ。