第28章 規制公益会社の価値評価
読了の目安 約3分前章で扱った電力・ガス会社は、「規制公益企業(Regulated Utility)」と呼ばれる、より広いカテゴリーの、代表的な一例に過ぎない。この章では、水道、通信インフラ(固定電話網など)、有料道路、空港・港湾といった、その他のさまざまな規制公益企業に共通する、一般化された評価上の原則を整理していく。
規制公益企業に共通する三つの特徴
規制公益企業と呼ばれる業種に、業界を問わず共通して見られる、三つの本質的な特徴を整理しておこう。
一つ目は、「自然独占性」だ。水道網や送電網、鉄道の線路といったインフラは、複数の事業者が並行して同じエリアに重複投資することが、経済合理性の観点から極めて非効率であるため、一つの地域には、通常一社(あるいは、ごく少数の事業者)しか存在しない、という構造になりやすい。
二つ目は、「巨額かつ長期にわたる固定資産投資」だ。前章の電力・ガス会社と同様、これらの事業は、数十年単位で使用される、巨額のインフラ資産に依存している。
三つ目は、「政府・規制当局による、料金・収益の規制」だ。自然独占という構造がゆえに、事業者が独占的な地位を利用して、不当に高い料金を設定することを防ぐため、政府がその料金水準や収益率を規制する、という仕組みが、ほぼ例外なく設けられている。
レートベース方式の一般化:あらゆる規制公益企業に通じる評価フレームワーク
前章で学んだ「レートベースに規制報酬率を掛け合わせる」という考え方は、電力・ガスに限らず、水道、通信インフラ、有料道路など、幅広い規制公益企業に共通する、一般化された評価フレームワークとして応用できる。
このフレームワークを用いた評価の実務手順は、次のようになる。まず、その事業者の規制対象資産(レートベース)の現在の評価額と、今後の投資計画(新たな設備投資によって、レートベースがどう増加していくか)を把握する。次に、規制当局が現在適用している(あるいは、将来適用するであろう)規制報酬率の水準を確認する。そして、これらの情報をもとに、「レートベース×規制報酬率」という計算式を用いて、将来の各年の許容収益(そして、そこから導かれる利益・FCF)を予測し、第13章で学んだDCFの手法を用いて、現在価値に割り引く。
規制の「予見可能性」こそが、規制公益企業評価の生命線
規制公益企業を評価する上で、最も重要な検討事項は、「その国・その規制当局の規制の枠組みが、どれだけ安定的で、予見可能なものか」という一点に尽きると言っても過言ではない。規制の枠組みが、政治情勢の変化などによって頻繁に、かつ予測不可能な形で変更されるような国・地域では、たとえレートベース方式という理論的な計算式が同じように適用されていても、その「実現可能性」に対する信頼度は、大きく損なわれてしまう。
したがって、規制公益企業を評価する実務家は、財務データの分析と同じくらいの熱量を持って、その国・地域の規制当局の過去の意思決定パターン、政治的な独立性、そして将来の規制変更の可能性について、定性的な調査・分析を行うことが求められる。この「定性的な規制環境の分析」と「定量的なレートベース方式の計算」の両輪こそが、規制公益企業評価における、真に実践的なアプローチである。