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初心者向け・理論株価の教科書

たとえ話と具体例で、現在の理論株価・10年後の価値・業種別モデルの考え方を学ぶ。

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10Y STOCK VALUE / TEXTBOOK25
III · 資源・バイオ・公益など

第25章 資源NAV

読了の目安 約4分

前のPARTでは、不動産という「実物資産」の評価にNAV(純資産価値)アプローチを応用したが、この章では、もう一つの代表的な「実物資産型」の業種——資源関連企業(石油・天然ガス、鉱山、金属資源など)——の評価に、このNAVの発想をどう応用していくかを扱う。資源企業の評価は、不動産評価と共通する部分を持ちながらも、「地下に眠る、有限で、しかも掘り出さなければ価値が実現しない資産」という、極めて特殊な性質ゆえに、独自の難しさを抱えている。

なぜ資源企業に「資源NAV」という専用の物差しが必要なのか

資源企業の価値の源泉は、その企業が権利を保有する「埋蔵量(リザーブ)」——地下に眠る、まだ採掘されていない石油や天然ガス、金属鉱石などの量——にある。この埋蔵量は、いわば「これから何十年もかけて、少しずつ現金化されていく、巨大な在庫」のようなものだと考えると分かりやすい。

第13章で学んだFCFF DCFを、そのままの形で資源企業に当てはめようとすると、大きな問題にぶつかる。DCFの明示的予測期間(通常5年から10年程度)を超えた先の「ターミナルバリュー」の計算(第15章)では、「企業が永続的に、一定の成長率で価値を生み出し続ける」という前提を置いていた。しかし、資源企業の場合、埋蔵量には物理的な限りがあり、掘り尽くしてしまえば、その鉱区・油田からの生産は、いずれ必ず終わりを迎える。「永続的に成長し続ける」という前提は、個々の鉱区・油田単位で見れば、根本的に成り立たないのだ。

資源NAVの計算構造:埋蔵量を、生産計画に沿って現金化していく

そこで資源企業の評価では、通常のDCFの発想を、「有限の資源が、生産計画に沿って、順次現金化されていく過程」を明示的にモデル化する形に、拡張して適用する。これが「資源NAV」と呼ばれるアプローチだ。

具体的な手順としては、まず、その企業が保有する埋蔵量を、地質学的な調査の確度に応じて分類する(「確認埋蔵量」「推定埋蔵量」「予想埋蔵量」といった区分が業界標準として存在する。確度が高いものほど、より保守的に、より高く評価される)。次に、それぞれの鉱区・油田について、今後の年次生産計画(いつ、どれだけの量を採掘・生産するか)を見積もる。そして、各年の生産量に、その時々の資源価格(これ自体が極めて変動の大きい、予測困難な変数であることは、後述する)と、生産コスト(採掘費用、精製費用、輸送費用など)を当てはめることで、各年のキャッシュフローを算出し、それを第02章で学んだ現在価値の考え方で割り引いて、すべての鉱区・油田について合算する。この合計額から、有利子負債(第03章)を差し引いたものが、資源NAVである。

この構造は、鉱区・油田が「使い切れば終わる、有限のプロジェクトの集合体」として扱われている点で、通常の企業のDCF(半永久的に事業が継続することを前提とする)とは、根本的な発想が異なることに注意してほしい。

資源価格という、極めて厄介な変数

資源NAVの計算において、最も評価結果を左右し、かつ最も予測が困難な変数が、「将来の資源価格」だ。原油価格や金属価格は、世界経済全体の需給動向、地政学的なリスク、代替エネルギーへの移行動向など、極めて多岐にわたる要因によって、短期的にも長期的にも、大きく変動する。

この不確実性の高さに対処するため、資源企業の評価実務では、単一の価格前提だけでなく、「保守的な価格シナリオ」「市場のフォワードカーブ(先物市場が織り込んでいる、将来の価格予想)に基づくシナリオ」「強気シナリオ」といった、複数の価格シナリオを並行して用いる手法が、極めて一般的である。第17章で赤字企業の黒字化モデルについて述べた際と同様に、単一の「点」としての理論株価ではなく、資源価格という不確実性の高い変数に応じた「幅」を持った理論株価を提示することが、資源企業の評価における、知的な誠実さの表れとなる。

資源開発企業特有の追加論点:探鉱コストと環境債務

最後に、資源企業の評価に特有の、二つの追加論点にも触れておきたい。一つは「探鉱コスト」だ。多くの資源企業は、既存の埋蔵量を掘り進めるだけでなく、新たな鉱区・油田を発見するための探鉱活動(試掘など)にも、継続的に投資を行っている。この探鉱活動が将来、新たな埋蔵量の発見につながる可能性を、どこまで理論株価に織り込むかは、極めて難しい判断を要する論点であり、実務上は、既に確認されている埋蔵量の価値評価とは切り離して、別途、確率論的な期待値として扱われることが多い(この考え方は、次章で扱うバイオ企業のrNPVの発想と、実は非常に近い)。

もう一つは「環境債務(環境修復義務)」だ。資源の採掘が終了した後、その採掘跡地を環境基準に沿って修復・原状回復するための費用が、将来の負債として発生する。この将来の環境修復費用の見積もりを、貸借対照表上の負債として、あるいはNAVの計算過程で控除すべき項目として、適切に織り込むことが、資源企業評価における、見落としてはならない重要なチェックポイントである。

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全47章 + 最終章・用語リスト

01
I · 価値評価の土台

理論価値は未来予知ではない

02
I · 価値評価の土台

CAGR、複利、現在価値

03
I · 価値評価の土台

貸借対照表と純有利子負債

04
I · 価値評価の土台

利益、営業CF、FCFを分ける

05
I · 価値評価の土台

1株価値と希薄化

06
I · 価値評価の土台

EVと株主価値を混ぜない

07
I · 価値評価の土台

株主資本コストとWACC

08
I · 価値評価の土台

正常化とドライバー予測

09
I · 価値評価の土台

観測事実・推定・仮定を分ける

10
II · 基本モデル

PERの理論と正しい使い方

11
II · 基本モデル

上場黒字企業の簡易評価

12
II · 基本モデル

Gordon成長モデルとDDM

13
II · 基本モデル

10年FCFF DCFを組み立てる

14
II · 基本モデル

FCFE DCF

15
II · 基本モデル

ターミナル価値とROIC

16
II · 基本モデル

残余利益とP/B

17
III · 企業と業種

上場赤字企業の黒字化モデル

18
III · 企業と業種

非上場企業の株主価値

19
III · 企業と業種

SOTPと持株会社NAV

20
III · 企業と業種

会社に式を合わせる

21
III · 企業と業種

銀行をP/TBVと残余利益で評価する

22
III · 企業と業種

保険会社の価値評価

23
III · 企業と業種

REIT・不動産NAV

24
III · 企業と業種

不動産賃貸会社の価値評価

25
III · 資源・バイオ・公益など

資源NAV

26
III · 資源・バイオ・公益など

バイオrNPV

27
III · 資源・バイオ・公益など

電力・ガス会社の価値評価

28
III · 資源・バイオ・公益など

規制公益会社の価値評価

29
III · 資源・バイオ・公益など

総合商社のSOTP評価

30
III · 資源・バイオ・公益など

持株会社のNAV評価

31
III · 資源・バイオ・公益など

コングロマリットの部門別評価

32
III · 資源・バイオ・公益など

証券会社の価値評価

33
III · 運用・航空・海運など

資産運用会社の価値評価

34
III · 運用・航空・海運など

航空会社の価値評価

35
III · 運用・航空・海運など

海運会社の価値評価

36
III · 運用・航空・海運など

鉄鋼会社の価値評価

37
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半導体メモリ会社の価値評価

38
III · 運用・航空・海運など

通信会社の価値評価

39
III · インフラ・建設・SaaSなど

インフラ運営会社の価値評価

40
III · インフラ・建設・SaaSなど

建設・エンジニアリング会社の価値評価

41
III · インフラ・建設・SaaSなど

不動産開発会社の案件別NAV

42
III · インフラ・建設・SaaSなど

SaaS・サブスクリプションの価値評価

43
III · インフラ・建設・SaaSなど

22業種モデル横断演習

44
IV · 実践と検証

指数・ETF・アクティブ運用

45
IV · 実践と検証

逆算と配当込みTSR

46
IV · 実践と検証

感度分析とモンテカルロ

47
IV · 実践と検証

モデル監査と投資メモ

終
最終章

最終章

語
用語リスト

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